高級シティホテルからビジネスホテル、カプセルホテル、そしてレジャーホテルと縦横無尽にホテルサービスを斬りまくる! 日本を代表する ホテル評論家 瀧澤信秋 が、いまイケてるレジャーホテルを自ら選び訪問。徹底リサーチし、ゲストに支持されるこれからのレジャーホテルを浮き彫りにしていきます。
第37回
miss morgan hotel
(神奈川県平塚市)
ゲストの日常に寄り添う
一般ホテルのレジャーホテル目線
この連載はレジャーホテルにフォーカスしたものであることは言うまでもないが、一般ホテルとは異なるリアルなゲスト目線に溢れる業態に着目してきたホテル評論家としては、一般ホテルとレジャーホテルのボーダレス化、すなわち一般ホテルを意識するレジャーホテルの動き、対して一般ホテルがレジャーホテルを意識する動向も常に注視してきた。
一般ホテル/レジャーホテルのボーダレスはさらにブラッシュアップされている感があり、この連載でも宿泊特化型ホテルを全国展開する新規開業ホテルのレジャーホテル目線、レジャーホテル運営会社が手がけるレジャーホテルエッセンス溢れる一般ホテルをレボートしてきた。
いずれもレジャーホテル運営に大いに参考になるだろう一般ホテルの紹介というスタンスであるが、今号も同様のホテルを紹介したい。
今回取材した「miss morgan hotel(ミスモーガンホテル)」は、レジャーホテル業界で広く知られた運営会社である、㈱Re・stayグループの宮原眞氏の手により、神奈川県湘南エリアに2020年3月誕生した個性溢れる一般ホテルである。
もともとレジャーホテルとして運営されていた物件を一般ホテルにリノベーションしたもので、まず、特徴的かつホテルを象徴するスペースがラウンジだ。宿泊客だけでなく街を行き交う人々が自由に使える空間であり、モーニングにランチ、カフェなど時間に合わせてメニューや音楽でさまざまな移ろいを楽しめるラウンジとも表せる。
このホテルのテーマのひとつが“アート”だ。ここで詳説するスペースはないが、創造力を掻き立てる壮大な架空のバックストーリーが構築されている。同時にアートが暮らしの身近にあることを大切にするかのように、館内のさまざまな場所でアートに触れることができ、客室にも多様なアートが配されており、アナログレコードを部屋で聴くことができる等々五感が研ぎ澄まされるようなホテルだ。
客室に付けられたネーミングにも注目したい。たとえば201号室のダブルルームは“自由の女神”、203号室のツインルームは“ヒーローの条件”、301号室のダブルルームは“不都合な真実”、503号室のダブルルームは“逃避行”など、なぜそんな名前が付けられているのか、まるで謎解きをしているような気分になれるホテルステイである。
支配人の高木芳暢氏は「ミスモーガンホテルには、直感的にすごい! 綺麗! かわいい!など思うアートはあまりありません。客室テーマも初見では意味不明のものも多い。ただ、美術館や博物館と違って滞在中ずっとそばにそれはあります。難しいテーマでも時間をかけて自分なりに考えることができます」といい、彼はそれを「脳汁が出る」とも表する。「ベッドは最高でお風呂も広い。体はすごく安らぎます。でも脳みそはすごく疲れます。私はこれも魅力だと思っています」という。なかなか深い。
これは、日常のアップデートのヒントが詰まった空間ともいえるだろうか。高級感や非現実を感じる空間というよりも、ゲストの日常をアップデートできるヒントが詰まったホテルであり、実際に「こんな部屋に住んでみたい」「こんなインテリア欲しい」というゲストもいるという。客室のソファや廊下に並ぶ椅子をオーダーしたゲストもいたというが、アートって結構面白い、レコードの音楽って中々いいな……等々、日常から逃げ出したい現実逃避や日常の疲れを癒したいというリフレッシュへの具体的アプローチがこのホテルから感じられる。
ゲストの日常をより良いものにする力がホテルにあることを、同ホテルは具体的に示してくれているのだ。思考力を掻き立てる脳汁あふれるテーマとアート、日常をアップデートするヒントが詰まったホテルとも表せよう。
このホテルを理解するためにはもう少しリピートする時間を要するだろうが、不可思議かつ難解なコンセプトそしてアートは、ライフスタイルホテルという一般ホテルのブームを先取りしつつ、従前のレジャーホテルというイメージを一新させていくことだけは確かだ。
miss morgan hotel
神奈川県平塚市明石町12-15
TEL.0463-63-0090
ホテル評論家 瀧澤 信秋氏
日本で数少ない宿泊者・利用者目線のホテル評論家として、テレビやラジオへの出演、雑誌・新聞連載など、多方面で活躍。著書に「365日365ホテル 上」(マガジンハウス)、「ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方」(光文社新書)など
http://www.takizawa-nobuaki.net/hotel/
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