連載 ⑥
日常生活とレジャーホテルの間に
必要な性を意識するスイッチ
作家・コラムニスト 神田つばき
■出会いを楽しむ空間で遊びたい
前から開いてみたいと思っているお店があります。それは首輪バー。現実にあるお店ではなく、私の空想の会員制バーです。
普通のバーではお酒のボトルをキープしますが、ここでキープするのは首輪です。店内にはブランド物のチョーカーから愛犬用の可愛い首輪、ボンテージファッション全開の皮革やステンレスの鍵付き首輪も飾られています。
女性が一人で飲んでいると、「あちらのお客さまからです」 と、恭しく銀盆に乗った首輪が届けられる。話してみたいと思う男性からだったら首輪を受け取る。それが合図で、男性は女性の隣りに席を移して会話する……。
こんなルールで出会いのプロセスを遊べるお店があったら楽しいと思いませんか。もちろん男女は逆もOKです。首輪は買い取ってお相手にプレゼントすることもできますし、二人の名前を入れてお店の壁に飾り、ボトルキープならぬ首輪キープをすることもできます。
この話を女子会でしたところ、「そんなお店があったら行ってみたい」と20~30代の女性たちが興味をもってくれました。声をかけられたりナンパされたり、という出会いのストーリーを、女性にとって安全な環境で体験したいというのです。
首輪を受け取らなかった場合はお話しできないルールなので、嫌な思いをせずにお断りもできます。出会いをゲームとして楽しむ感覚です。
また、首輪というアイテムにロマンティックな思いを抱く女性は少なくありません。縛ったり打ったりのSMは怖いけれど、素敵な男性のペットになって可愛がられたい――という、少し刺激的な恋愛を象徴する小道具なのです。
こんなコンセプトバーがレジャーホテルの1階にあったら、大人の女性たちに人気が出るでしょう。シティホテルのバーで飲んで上の部屋にお泊り……というのは、バブル時代のデートみたいで現代の感覚では重たすぎる気がしますね。
「話のタネに来てみた」と言える遊び心のある首輪バーなら、女性だけでも入りやすいはずです。レジャーホテルに行くカップルの待ち合わせにも利用されるので、お部屋の予約率もアップすることでしょう。
■併設店舗からの新規ユーザー開拓
最近、ツイッターで「パートナーに日常と非日常をハッキリ分けてほしいか」というアンケートを取りました。その結果、約9割の人が「プレイの時だけ非日常的になりたい」と答えています。
とくに女性では、96%もの人が「日常とは違う特別な時間を演出してほしい」と望んでいます。ここで難しいのが日常から非日常へのスイッチをいかにしてつくるかという問題です。
普段の生活が穏やかで落ち着いていると、セクシーな雰囲気への移行が難しく、「いまからセックスしなければ」というストレスを重たく感じます。この心理的負担を回避しようとして、仲は良いのにセックスレスという状態に陥ってしまう例がとても多いです。
楽しいデートとセックスの時間の間に、ゆるやかにセクシーなムードを楽しめる場があれば、「二人きりになりたい」「ホテルに入りたい」という気持ちが自然に高まります。ハプバーのような直接的な行為を目的とした場ではなく、バイブレーターがたくさん陳列されているバイブバーや、古今東西のセクシーな書物を集めたブックカフェなどが入りやすいでしょう。
友達からセクシーな関係に一歩進みたいと思っている二人にはもちろん、セックスのきっかけがつくりにくくなっているご夫婦には、日常から非日常へのスイッチが必要です。これまでにないコンセプトのカフェやバーを併設することで、レジャーホテルは新たな客層を獲得することができるのではないでしょうか。
神田つばき プロフィール
離婚と子宮ガンをきっかけに、女性に生まれたことの愉しみを求めて緊縛写真のモデルとライターに。『東京女子エロ画祭』『大人の性教育勉強会』などのイベント主宰も。女性の健康とWLB推進員(NPO法人女性の健康とメノポーズ協会)、中級シニアライフカウンセラー(一般社団法人シニアライフサポート協会)として性の健康のために活動している。Twitter IDは@tsubakist