連載⑰
睡眠不足は国民病、
休憩利用が夫婦の危機も過労死も予防!?
レジャーホテルだから実現できる
贅沢な睡眠を考える
作家・コラムニスト 神田つばき
既婚女性は避難場所を求めている!
トークイベントや取材で出会うさまざまな人に、「あなたはレジャーホテルでどんなことがしてみたいですか」と聞いているのですが、そのなかに少し変わった要望がありました。「ぐっすり眠りたい」という30代前半の女性からの声です。
睡眠? レジャーホテルで?
どういう意味だろうとあらためて話を聞いてみると、結婚してからの2年間、常に睡眠不足だというのです。原因はパートナーのいびきでした。
8か月の赤ちゃんがいて育休中ですが、春には職場にフルタイムで復帰しなくてはなりません。それなのに「疲れて、気を失う勢いで眠りに就くのに、週に3日はパートナーのいびきで目が覚める」「よく寝たと言って起きてくるパートナーに殺意すら覚える」「家から避難して一人でぐっすり眠ってみたい」……と、悩みは深刻です。
彼女が特別に神経質なのではなく、いびきを理由に「夫と別居したい」という女性の声はよく聞きます。いびきは騒音であり、家庭内・夫婦間の公害問題だという指摘もあります。
環境省の環境基準では、昼間55デシベル以下、夜間45デシベル以下が健康的に生活できる音量だとされています。ところが普通のいびきの音量は60デシベル、大きないびきでは80デシベルにもなるのです。80デシベルはセミの鳴き声やゲームセンター内の騒音に該当します。
これでは貴重な睡眠時間が拷問タイムになってしまいますし、愛情を確認する場所だった寝室に殺伐としたムードが立ち込めてしまうのも無理はありません。健康面でも愛情面でも無視できない問題なのです。
良質な睡眠は現代の贅沢品
日本人の睡眠時間は先進国で最低レベルの6時間18分、寝不足による経済損失は18兆円という試算があるそうです(NHK『クローズアップ現代』による)。いまの日本人のライフスタイルをすぐに変えることは難しいかもしれません。
しかし、食事で足りない栄養素をサプリメントで補うように、寝不足を感じたときに良質の睡眠をとることのできるレジャーホテルがあったら、男女を問わず多くの人が利用するでしょう。
スマートベッドと呼ばれる製品があります。入眠を察知すると眠りが深くなるように、いびきを検知すると気道の角度を変えるように、腰痛持ちの人は腰にテンションをかけないように、設定した起床時間が近づくとアラームなしで目が覚めるように、自動的にベッドの角度が変わり、マットレスの硬さも体調に合わせて変わります。価格が50万円程度するので簡単に家庭に導入できませんが、レジャーホテルにあったら誰もが利用するはずです。
また、自然に眠りに誘われる「電車に乗っているような揺れ」や「海辺でまどろんでいるような波の音と風」などを体感できる設備があったら、さらに豊かな満足感が得られそうです。防音がしっかりしているレジャーホテルの部屋なら、照明・湿度・温度・調香をコントロールして、家庭では得られない贅沢な眠りを提供できるでしょう。
日本学術会議が「睡眠学の創設と研究推進の提言」を発表し、「ライフスタイルの大きな変化が睡眠を脅かしている」と警鐘を鳴らしたのはいまから21年前。その後も国民の睡眠不足は悪化する一方なのに、睡眠のメカニズムにはまだ解明されていない部分が多く、今や「上質の睡眠は現代の贅沢品」とも言われています。
ストレスやデジタル疲労から、決まった時間に寝て起きることがうまくできない人が増えています。すきま時間に立ち寄る睡眠ステーションのようなレジャーホテルがあったらどんなに良いでしょうか。
空港でスリープポッドを利用するように、レジャーホテルで睡眠負債を解消できたら現代人の健康に大きく寄与できることと期待しています。
神田つばき プロフィール
離婚と子宮ガンをきっかけに、女性に生まれたことの愉しみを求めて緊縛写真のモデルとライターに。『東京女子エロ画祭』『大人の性教育勉強会』などのイベント主宰も。女性の健康とWLB推進員(NPO法人女性の健康とメノポーズ協会)、中級シニアライフカウンセラー(一般社団法人シニアライフサポート協会)として性の健康のために活動している。Twitter IDは@tsubakist