連載⑮

“ばえ”とパフォーマンスフルな接客が
若者の心を掴むカギ

サブカルアートのエロが
次世代のホテルを演出する!?

作家・コラムニスト 神田つばき

アダルトユーザーの高齢化が止まらない

 アダルトビデオに「ドラマ物」というジャンルがあり、脚本を書いています。女性(多くは人妻)のセリフに指定があり、「うん」ではなく「はい」、「うれしい」は「うれしいわ」、と昭和のおしとやかな女性のことばで書く決まりになっています。現在、AVを購入している人の大多数はシニアだからです。家庭用ビデオデッキが普及した1980年代の若者がシニアとなり、今もセクシー女優の作品を購入しています。彼らは、昭和のやさしい若奥さんのイメージを今の若い女優の姿に重ねて見ています。

 昭和は恋愛至上主義の時代でした。歌謡曲や少女マンガの多くは恋愛をテーマにしており、車もファッションも住宅も愛を成就させるための重要なツール。レジャーホテルもそうです。彼氏と初めてラブホに行った報告は、女子同士でもりあがる話題でした。

 ところが今や、本誌139号の「レジャーホテル利用者アンケート」の回答も、4060代が回答者の84%を占めています。最近の若者はエロいことに関心がなくなってしまったのでは!?と心配になります。
「無料動画で性行為シーンだけ見て満足してしまうのだろう」「男は草食化、女は性の同意にこだわり、セックスの意欲が減退しているのではないか」
などと言われていますが、実際はどうなのでしょうか。

エロ=SEXではないエロを楽しむ若者たち

 イベントプロデューサーの三代目葵マリーさん、AV女優の友田真希さんと東京・向島の「大道芸術館」というコンセプト美術館を見学しました。ここはひと言で言えば昭和のエロの遺産のテーマパーク。鳥羽や石和など閉鎖した秘宝館の展示物やピンク映画のポスター、見世物小屋の看板絵などを、料亭を改装した建物に展示しています。すべて写真家でありジャーナリストでもある都築響一さんが蒐集した希少品です。

 昭和をなつかしむシニアが集まっているだろうと予測して訪れたところ、まわりを見れば2030代の若者ばかりで驚きました。男性同士のグループもカップルもいます。

 白手袋をはめた学芸員がエッチな趣向の工芸品を手にとって解説をはじめると、真剣に耳を傾ける若者たち。古書などの資料が閲覧できるバーでは、精巧なラブドールがカウンターに座っており、人形と並んで記念撮影を楽しみます。私たちも記念撮影を撮り、大人の遠足を満喫しました。
この場所が若者に好まれる理由を分析してみました。
①ばえスポットがたくさんあり、面白い写真が撮れる。
②隅々まで清潔で、照明が凝っている(人形など、古いもののはずなのに実際の秘宝館にあった時よりもきれいに見えた)。
③トイレや階段にも展示があり、飽きない。
④接客が丁寧で、コスパが良く感じる。

 受付、学芸員、バーの接客係――全員が、館を切り盛りする女将さんと同じ視線でもてなしているのが印象的でした。エッチなものだからこっそり見てね、というスタンスではなく、おもしろさを知って持ち帰ってくださいね、というパフォーマンス精神はテーマパークのキャストのようです。

 若い人たちは、サブカルチャーとして昭和のエロに好奇心を刺激されるようで、「こんな話ができる場所があるなんて」と喜んでいました。

 かつてのレジャーホテルは、人目を忍んで入り、人に顔を合わさずにキーを受け取り、一瞬でも早く二人きりになるための場所でした。恋愛至上主義の昭和時代、ホテルは性欲を解き放つためになくてはならない場所だったかもしれません。

 それに対して今の若い人々は、エロ=セックスとは限らない、それだけでは物足りない、と考えているようで、決してエロに関心がないわけではないのだと確信しました。


左から友田真希氏、女将さん、三代目葵マリー氏、筆者。鳥羽秘宝館から来たたまごさんの前で


 エロ文化のアートディレクターが監修し、コンセプチュアルなばえスポットとして若い人が集まるレジャーホテルが、これから誕生してくるのではないでしょうか。

神田つばき プロフィール
離婚と子宮ガンをきっかけに、女性に生まれたことの愉しみを求めて緊縛写真のモデルとライターに。『東京女子エロ画祭』『大人の性教育勉強会』などのイベント主宰も。女性の健康とWLB推進員(NPO法人女性の健康とメノポーズ協会)、中級シニアライフカウンセラー(一般社団法人シニアライフサポート協会)として性の健康のために活動している。Twitter ID@tsubakist


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