作家・コラムニスト 神田つばき
性への意欲が
シニアのセルフネグレクトを予防する
作家・コラムニスト 神田つばき
■女らしさ・男らしさを取り戻したい
私たち人間は繁殖を目的としないセックスをする、とても不思議な動物です。繁殖期以外にセックスをすることには、どんな意義があるのでしょうか。
スウェーデンの生理学博士・モベリ教授によれば、最近“幸せホルモン”として注目されているオキシトシンは、肌と肌を密着させることで活発に分泌されるそうです。
オキシトシンはストレスを軽減し、抗炎症作用を促進し、人間を社交的にしてくれます。性ホルモンが減少する更年期以降、抱擁や愛撫によって分泌がふえるオキシトシンはとても頼りになる存在と言えるでしょう。
また、セックスにはもう一つ大切な働きがあります。人間は演劇をする動物です。世界各地に演劇がありますし、祭や宗教の儀式も演劇の要素をもっています。演劇とは役割を演じて、見せて、本人も役に没頭しますが、人間は性行為でも演劇的なふるまいをしています。
社会生活の仮面を脱いでオスとメスの役になりきり、お互いに魅了しあい、自分も集中の果てに満足を得る―私たちはセックスによって女らしさ、男らしさを取りもどすことができるのです。
■更年期以降の“しんどい”性
しかし、男女ともに更年期からはセックスに“しんどさ”を感じる人が多くなります。骨盤底筋(膀胱・生殖器・直腸を支えているハンモックのような筋肉)が弱くなるため、女性は膣のしまりがゆるくなり、男性は勃起が持続しにくくなります。女性の分泌液も減少します。
でも、これらの“しんどさ”はすべて解決できるものなのです。たとえば女性の膣にシリンジで入れる洗浄剤は、液体が少しずつ出てくるので自然に濡れたような状態を作り出すことができます。
膣の入り口付近は個包装の潤滑ゼリーでケアしたり、純度の高いオイルで陰部をマッサージしておくと、性交痛をかなり予防できます。女性の膣がベストコンディションになれば、男性の勃起力が高まることは言うまでもありません。
また、下腹部のたるみを見せたくないからと、ヌードになりたがらないシニア女性はたくさんいます。この悩みにはガーターベルトとガーターストッキングが役立ちます。若い女性向けの幅の狭いものではなく、下腹部をしっかりカバーできるクラシックタイプのガーターがネット購入できます。これを着けると女性はセクシーに見えますし、男性は視覚から興奮を得るので、素晴らしいスパイスになるのです。
シニアの多くはこういったお助け商品があることを知らず、愛し合いたい意欲はありながら、だんだんセックスが苦手科目のように感じられ、やむなく性を卒業してしまいます。レジャーホテルにシニア向けのお役立ちグッズのレンタルや販売があれば、試してみたいと思うシニアはたくさんいるでしょう。
■異性として見られることの重要性
男と女を演じる小道具はほかにもあります。レジャーホテルにあるといいなと思うものの一つが男性用の香水です。女性は嗅覚から性的な刺激を受けやすいので、自分の好みの香りをつけている男性に抱かれたいのですが、「家や職場からつけてくるわけにはいかない」と男性はためらいます。
フロントや待合室で、デパートの香水売り場のように手にとって好きな香りを選び、お部屋でつけてからセックスすれば興奮が高まるはずです。嗅覚への前戯になり、シニアにとって避けられない加齢臭の悩みも解消できそうです。
相手から自分がどう見えるかを意識することは社会性の重要なキーポイントです。今、高齢者の引きこもりが問題になっています。住居と年金はあるのにセルフネグレクトになり、ゴミに埋もれて孤独死する人が少なからずいるのです。
女として見られること、男として見られること―年齢が高くなっても自身のセクシュアリティを意識し続けることは、老後のQOLを高めてくれるでしょう。レジャーホテルがシニアのセクシュアリティを目覚めさせる場となり、超高齢化社会を明るくポジティブなものにしてくれることを、楽しみに期待しています。
神田つばき プロフィール
離婚と子宮ガンをきっかけに、女性に生まれたことの愉しみを求めて緊縛写真のモデルとライターに。『東京女子エロ画祭』『大人の性教育勉強会』などのイベント主宰も。女性の健康とWLB推進員(NPO法人女性の健康とメノポーズ協会)、中級シニアライフカウンセラー(一般社団法人シニアライフサポート協会)として性の健康のために活動している。Twitter IDは@tsubakist