今後、他社会館のリブランディングは進んでいくのだろうか。近年、「後継者不在もあって、事業譲渡話をよく耳にする」という声を取材時にもらす事業者が多くなっているが、事実、編集部にも事業売却(もしくは事業譲受)に関する問合せがふえている。
これらの動きを俯瞰すると、前掲した選択肢のうち、@自社ブランド名を冠する、A会館名はそのまま継続して(提供サービスを含めた) オペレーション変更を最優先する、というパターンが多いように思われる。
事実、物件取得後に、リニューアルを行なわず、会館名もそのまま引き継いだケースもある。会館名称を変更しないことを選択した事業者の多くは、「地元住民にとっては親しみのある会館名だけに、あえて変更する必要はない」という、地域密着の葬祭業ならではの考えもあるようだが、これはつまり、前経営体が築き上げた地域との関係性が会館名称の変更や経営陣の刷新(さらにいえば従業員の刷新)によって、一度途切れてしまうという不安の裏返しなのかもしれない。しかし、だからといって旧会館名を引き継ぐことが得策とは限らない。エリア内に社名、会館ブランド名が知れ渡っている事業者であれば、そのブランド力を効果的に活用すべきであり、むしろそのほうが近隣住民に与える安心感につながるからだ。
現在、M&Aに登場するプレイヤーの多くは、大手互助会を筆頭に、大手専門葬儀社、そしてファンドを絡めた事業買収といったケースがほとんどだろう。しかし、今後は本誌
21年8月号(297)で取り上げた和歌山県和歌山市のヴィ・クリエイトのようなケースを筆頭に、シュリンクしていくマーケットを睨んだ生き残り戦略として競合同士が企業合併の検討をはじめる中小事業者の動きも活発化する可能性がある。
そこで重視すべきは、明確なビジョンを描いたうえで行動すること。このビジョンを描くことなく他社会館のM&Aを行ない、当該地域の葬祭事情を理解せず、自社なりの葬儀を押しつけてしまうと、結果としてその地域の葬送を大きく変容させてしまうことになり兼ねない。したがって、展開エリアの特性を理解したうえで進出の有無を決断すべきであるし、譲受後も地域社会の特性を把握しながら、当該会館のポジショニングを鮮明なものにしていく必要がある。
なぜなら、前経営体時代の利用者がそのままそっくりリピーターとして囲い込みができる確証はないからだ。前経営体時代の色がついた施設だからこそ、明確なビジョンを示すことが他社会館を活かすキモになると言えるだろう。
(ケーススタディは本誌で)