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【CASESTUDY 1】
グランピング福岡〜海風と波の音〜
グランピングはアウトドアレジャーの1ツール
「食」をはじめとする体験価値の向上を地域との協働で追求

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多彩な施設が砂浜に並ぶ。コテージ棟はすべてウッドデッキと室内にロフトを設置
ロケーション活かした「サウナon the beach」を実現
 レストラン、ウェディング施設の運営から果樹栽培、加工食品製造販売事業など広く行なう潟Oラノ24K(福岡県岡垣町、社長:小役丸秀一氏)。農業法人を立ち上げ、農産物の生産を手掛けるのをはじめ、地域の6次産業化を目指し、地産地消レストラン「野の葡萄」の全国展開でも知られる。その同社が玄界灘に面した福岡市郊外の福津海岸エリアに2013年にオープンしたのがウェディング施設、飲食店からなる複合レジャー施設「ぶどうの樹 福津海岸通り」だ。
 目の前に海が広がる砂浜のロケーションで、夕陽の美しさなどもあり人気スポットとなるなか、その隣接地に17年8月に「グランピング福岡〜海風と波の音〜」を増設した。コテージ4棟、テント棟8サイト、さらに空中テント「スカイドーム」1棟などからなるグランピング施設で、日帰り型の既存施設に宿泊機能を付加した形だ。
 翌18年4月には好調な運営を受け、新たにコテージ4棟(アネックス棟)を増設、テント棟は充実を図り5サイトとするなかで、今年22年、新たなコンテンツとしてサウナの導入を図った。
 その要因として、同社の執行役員常務 大堂卓哉氏は「お客様に多かった、日常生活での疲れを癒すために訪れるニーズに、さらに応えていきたいとの想いがありました」という。昨年夏に試験的にテントサウナを仮設したところ、利用者から好評を得たことを踏まえ、2タイプのサウナを本格導入。1つはテントサウナで既存のテント1棟に併設、当該宿泊客の専用サウナとして貸切で利用できるもの。もう1つはトレーラーハウスタイプの移動式サウナ。通常は砂浜上に設置、室内から窓を通して海原に沈む夕日を眺めながらのサウナ体験などが売り物だ。こちらは予約制で誰もが利用できるパブリック型として運用している(ともに潟<gス製)。
 双方ともキャパシティは最大6人程度で、薪ストーブを採用することで利用者自らの好みの温度への調整が可能で、セルフロウリュにも対応する。
 トレーラーハウスサウナについては、その可動性を最大の武器として活かす。遠浅で白い砂浜が特徴の福津海岸は引き潮時に濡れた砂浜や潮だまりが鏡のように空を反射して神秘的な光景をみせることから、広く「かがみの海」と呼ばれ親しまれる。とりわけ昨今はインスタグラムなどで「映え」のスポットとして人気を集めるが、「干潮時にはこのビーチ上に移動することで他にないサウナ体験ができる『サウナon the beach』の実現を念頭に、トレーラータイプを選択しました」と大堂氏は明かす。
 ちなみに今回のサウナ導入による追加投資額は約300万円とのこと。
アウトドアリゾートとしての体験価値こそ売り物に
 グランピング福岡の稼動率は夏はほぼ100%、春・秋は約90%、冬場であっても60〜65%を維持している。そうしたなかで今回のサウナの導入は冬場稼動の底上げはもとより、通年での宿泊体験の魅力向上に貢献する策であることは言を俟たない。「本格的なフィンランドサウナの導入はコアなサウナーのリピート需要の喚起も期待できます」(大堂氏)。
 しかしその一方で、同社ではグランピング機能だけに集客を依存してはいない。冒頭で記したようにウェディング施設をはじめ新鮮な魚介類を提供する寿司店やカフェなど多彩な飲食店からなる複合施設であるためだ。もとより「ぶどうの樹」ブランドの集客力には底堅いものがある。
 そのため同社では、「当施設全体を海辺の好ロケーションを活かした『アウトドアリゾート』と位置づけ、グランピングはあくまでもそこでの宿泊機能を担う1つのツールと捉えています」と大堂氏。したがって、集客面でもグランピングという宿泊形態の特異性(ハード)に依拠することなく、あくまでもアウトドアリゾートとしての「体験価値」(ソフト)にこそ力を注ぎ、そのコンテンツの魅力こそが他施設との差別化にもつながるものとする。
 具体的には同社のコア事業である「食」の部分へのこだわりを強みとして、グランピング利用者に向けても、同社ならではの新鮮な農産物や地元漁師から直接入手する海産物などの食材で構成するBBQメニューが集客要因の1つとなっている模様だ。また、宿泊客には手作りソーセージや飯盒によるパンづくりなどの体験を無料でパッケージしているのも見逃せない。
 さらに「食」の面での強みとしては併設する寿司店やイタリアンレストランなどとの連携により、連泊時でもBBQ以外の楽しみの提供が可能な「総合力」も単体施設にはないインセンティブだろう。
 こうした複合施設ならではの多様な収益軸をもつことから、グランピングの利用料金も比較的リーズナブルな設定とし、その結果、小さな子どもを含む若いファミリー層を中心としたリピート需要を獲得している(ADRは約5万円)。福岡市と北九州市の中間にあり、車で1時間圏内に約300万人の人口をもつ立地も安定稼動の要因だ。
 ちなみに同地から車行約20分、同社の本拠地である岡垣町・波津海岸エリアでも既存の自社所有の宴会旅館をリノベーションした日帰り温浴施設をさらに改変し、旅館とグランピングの合体による「Ryokanping(旅館ピング)」を提案中だ。宿泊機能と食、昨年新設したワイナリー、農園など、海と森のそれぞれのアクティビティが楽しめる複合型リゾートとして順次整備を進める一方、こちらでも「もんどり漁」(事前に海に仕掛けた罠による漁法)や畑での季節の野菜の収穫体験を食につなげるなど、体験価値創出に余念がない。さらにこの先、浜辺に小型のテントサウナ群を展開し既存の宿泊施設と紐づけ、個別に貸切利用できる体制づくりを近隣旅館とも協働で計画中という。
 このように同社では自社施設のみならず、エリア内の宿泊施設や観光拠点、さらに漁業、農業従事者などともネットワークを形成し、相互にwin-winの関係を構築、顧客満足の向上とともに地域経済の活性化につなげる方針を事業の根幹に据える。「『地域とともに』というのが当社創業以来の基本理念ですから」と大堂氏。
 このように長年培ってきた「食」に対する知見をベースにその地域ならではの多様な体験メニューを用意することこそ、一般的なグランピング単独業態と一線を画す差別化のポイントといえよう。「海辺で暮らす」感覚で新しい観光のあり方を提案したいとする同社では業態の枠にとらわれることなく、アウトドアレジャーの魅力をフルに活かすという視点から体験価値のさらなる拡充を図っていく方針だ。
<そのほかのケーススタディは本誌にて>
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