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ホテルマネジメント契約の本質及びリース方式との相違点

執筆|鈴木泰治郎 ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業) パートナー弁護士

  • ホテル
  • 契約実務
 ホテルマネジメント契約は、リース方式と比較するとオーナーがホテル経営に関与する度合いが大きく、そのぶんオーナーとホテルオペレーター間の権利義務関係やリスク分担など定めるべき事項が多くなり、とりわけ外資系ホテルオペレーターとのホテルマネジメント契約は内容が複雑かつ膨大となる。はじめに、ホテルマネジメント契約とリース契約の比較と双方のメリット・デメリットを整理する。

マネジメント契約の本質

マネジメント契約方式とリース方式のいずれを選択すべきか
 以下の相違点を考慮する。ただし、国際的オペレーターはマネジメント契約方式が一般的。事実上、マネジメント契約方式を受け入れざるを得ないことが多い(国際的オペレーターでもリース方式を受け入れるケースもあるのでこの点は交渉事項)。

◎オペレーターに対する法的保護:リース方式ではオペレーターは賃借人として借地借家法による強い保護を受ける
 ◆原則としてオーナーは更新拒絶不可、オペレーターに賃料減額請求権あり(以上は普通借家の場合)
 ◆パフォーマンステストによるオーナーの解除権の有効性が不明確
 ◆オペレーターは新所有者に対してホテル運営権(賃借権)を主張できる
◎損益の分配:
 ◆マネジメント契約方式:オペレーターが売上げ及び収益に連動するフィーを得て、その他はオーナーが損益を受ける(アップサイド及びダウンサイドはオーナーに帰属する)
 ◆リース方式:@固定賃料、またはA固定賃料+変動賃料(アップサイド及びダウンサイドはオペレーターに帰属する)
◎費用負担とオーナーのモニタリング
 ◆マネジメント契約方式はオーナーがホテル事業の費用を負担する。費用の適切性を確保するためにモニタリングが必要
 ◆オーナーにモニタリング能力があるか否かがポイント
◎ホテル従業員の雇用
 ◆マネジメント契約方式ではオーナーが雇用し、リース方式ではオペレーターが雇用することが一般的
 ◆ただし、マネジメント契約でもオペレーターが雇用するケースもある
◎ホテル売却の難易
 ◆リース方式のほうが売却先を見つけることが容易(賃貸事業としてホテルを取得する者を売却先候補とすることができるため)

マネジメント契約とは

 マネジメント契約は、日本語では業務委託契約または運営委託契約といい、法律上は委任契約(民法第643条)に分類される。民法が定める委任契約当事者間の主な権利義務関係は以下のとおりである。

@受任者の善管注意義務
 受任者は、委任契約の目的に適するように受託した事務を善良なる管理者の注意をもって遂行する義務を負う(善管注意義務、民法第644条)。
 善管注意義務とは、その者が属する階層・職業などにおいて一般に要求されるだけの注意を尽くして業務を遂行する義務をいう。したがって、受任者の会社規模・人的基盤からすると最大限の努力を行なったからといって善管注意義務が果たされるわけではない。ホテルにおいては、ホテルの属性に応じて客観的かつ一般的に要求される水準の運営管理が要求されることとなる。
 マネジメント契約において、善管注意義務の内容が具体的に定められることがあり、例として、「国際的高級ホテルの運営について豊富な経験を有するオペレーターとして合理的に期待される水準の注意及び技能をもって本件ホテルを運営し、管理するものとする」といった文言が定められる。

A受任者の報告義務
 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、また、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない(民法第645条)。
 マネジメント契約においては、業績報告の時期、内容及び方法については具体的に定められる(詳細は「第2編 第8章 会計及び業績報告」を参照のこと)。

B受任者の金銭等引渡義務
 受任者は、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭、権利その他のものを委任者に引き渡さなければならない(民法第648条)。
 マネジメント契約においては、ホテルから生じる宿泊料金その他の収入はオーナー名義の銀行口座に入金される。オペレーターは、支配人(または経理部長)を通じてその入出金を取り扱う権限を有するが、ホテルの運営費用及び自らに支払われるべきフィーを支出したあとの残金は、毎月またはマネジメント契約において定められた一定期間ごとに、オーナーに引渡されることとなる。

C受任者の報酬請求権
 受任者は、特約がある場合には、委任者に対して業務終了後または契約期間終了後に報酬を請求することができる。委任契約が中途で終了した場合はすでに履行した割合に応じて報酬を請求することができる(民法第648条)。マネジメント契約においては報酬の時期及び方法について特約が定められる。
(中略)

リース方式とマネジメント契約方式の相違点と各方式のメリット・デメリット

 典型的なリース方式とマネジメント契約方式を比較した場合のメリット及びデメリットは下の表のとおりである。

マネジメント契約(MC)方式とリース方式の違い

@借地借家法の適用の有無
 法的観点からみたとき、最も根本的な相違点は、借地借家法の適用の有無及び対抗要件の具備の可否にある。ホテルを含む建物の賃貸借契約には借地借家法が適用され、賃借人であるオペレーターは強く保護される。賃貸借期間満了時において、賃貸人たるオーナーは、「正当事由」がなければ更新を拒絶することができない(借地借家法第28条)。「正当事由」の判断においては、@賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情が主たる判断要素となり、その他の従たる判断要素として、A賃貸借に関する従前の経過、B建替えの必要性(老朽、耐震不足または高度利用の必要性)、C立退料の提供の有無が考慮される。

Aオーナーによる中途解約
 また、賃料不払その他の賃貸借契約上の賃借人たるオペレーターの義務違反を理由とする中途解約についても、判例は「信頼関係を破壊するに至る程度」の義務違反がなければ賃貸人による中途解約を認めない傾向にある。変動賃料が定められているホテルリース契約においてはパフォーマンステスト条項として、ホテルの業績が悪化した場合にはオーナーに解除権が付与されている場合がある。借地借家法が適用される場合、パフォーマンステスト条項に基づくオーナーのホテルリース契約解除の有効性は必ずしも明らかではない。なお、ホテルリース契約を定期借家契約とすることによって賃貸借期間満了時の更新がないこととすることは可能であるが(借地借家法第38条第1項)、定期借家契約の場合であっても義務違反またはパフォーマンステスト条項による中途解約の有効性が明確でないことは普通借家契約の場合と同様である。

B賃料増減額請求権、フィー増減額請求権
 リース方式の場合、当事者間に賃料増減額請求権が認められる(借地借家法第32条)。賃料が、@土地もしくは建物に対する税金などの増減、A土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動、Bまたは近隣の同種の建物の賃料に比較して不相当となったときは、当事者は、将来に向かって賃料の増減を請求することができる。賃貸人の賃料増額請求権は合意によって排除できるが、賃借人の賃料減額請求権は合意によっても排除できない(借地借家法第38条第1項但書参照)。ただし、例外的に定期借家契約である場合は賃借人の賃料減額請求権を合意によって排除することができる(借地借家法第38条第7項)。
 これに対し、マネジメント契約方式の場合、フィーの金額はマネジメント契約に定めたとおりとなり、特約がない限り、当事者間にフィーの増減額請求権は認められない。

C第三者に対するオペレーターのホテル運営権の主張の可否
 賃借権は借地借家法に基づき建物の引渡しによって対抗要件が具備される(借地借家法第31条第1項)。したがって、賃借人が建物の引渡しを受けた後に建物の所有権を取得した者及び抵当権を設定した者に対して、賃借人は賃借権を主張することができる。他方、マネジメント契約上のオペレーターの権利については対抗要件を具備する手段がないため、建物の所有権を取得した者及び抵当権を設定した者に対して、オペレーターはマネジメント契約に基づくホテル運営権その他の権利を主張することはできない。
 マネジメント契約において、オーナーはオペレーターの同意なく(あるいはマネジメント契約上のオーナーの地位を建物新所有者に承継させることなく)建物を譲渡することはできない旨の特約が定められることが一般的であるが(詳細は「第2編 第12章 (4)ホテルマネジメント契約上の地位の譲渡」を参照のこと)、オーナーが当該義務に違反して建物の所有権を第三者に譲渡または第三者のために抵当権を設定した場合には、オペレーターはオーナーに対して損害賠償請求することができるものの、建物の新所有者などに対して、その者が所有権などを取得した時点でマネジメント契約の存在を知っていたとしても、マネジメント契約の継続を主張することはできない。
 そのため、オペレーターにとってNon-Disturbance 契約(妨害排除契約)の必要性が生じる。
(つづきは本書で)

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