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既存施設でも対応可能なリゾート事業の成長戦略
──ワーケーションリゾート

執筆|加藤文人 潟潟]ートコミュニケーションデザイン 代表取締役

  • レジャー産業
  • リゾート・観光

タイプ別ワーケーション

 コロナ禍でにわかに注目を集めるようになった「ワーケーション」は、かねてから定着への難しさが指摘されてきた。ところが、1年を超えるコロナ禍による新しい生活様式、企業側の働き方改革の推進などを追い風に、不動産企業、ホテル運営企業などによる事業化への動きが活発になっている。
 各方面で注目されているワーケーションは次のとおりに分類できる。
@バケーションベース型
 旅行先などで休暇を兼ねてリモートワークを行なう。旅をしている間の一部を出勤扱いにするため企業側の制度確立が必要となる。基本は、家族単位の旅行をベースに一部の時間を就業時間に充てるもので、いわゆる一般的なワーケーションである。
Aビジネスベース型(ブリージャー)
 ブリージャーも広義でのワーケーションと捉える。ブリージャーは世界的なトレンドでもあり、日本でもプレ・ポストMICE として官民あげて体制づくりに着手しつつある。
B帰省ベース型(J-ワーケーション)
 お盆や正月等の帰省時にテレワークで業務を行なうことをバケーションベース型とは別に整理した。帰省なので受け皿となる地域のコミュニティをベースとした交流が容易である。日本独自の展開が期待でき、最も可能性を感じるワーケーションのスタイルといえる。混雑するお盆や年末年始の前後に実施するので、移動によるストレスの軽減や、ふるさとで家族とゆっくり過ごすことによるワークライフバランスの向上が可能である。また、ふるさとでの滞在時間が延びることでふるさとの友人や地域との接点が増える。企業の枠組みを超えて自治体サイドがこの取組みを推進すると「地縁のつなぎなおし」につながり、さまざまな交流から新規事業の創出などイノベーティブな展開にも期待がもてる。
Cフリーランス型
 世界的に増えつづけているフリーランスは、現時点においてワーケーションのメインターゲットである。企業にとっては自社の社員がフリーランスとワーケーションの場で出会い、新しいビジネスの創出や社員の意識改革につながればという期待もある。

ワーケーションに取り組む企業と受け皿地域のメリット

@企業のメリット
・長期休暇の取得推進
 旅先などから仕事ができれば、必要最低限の業務をこなしつつ、休暇も楽しむことができる。結果として長期休暇も取りやすくなる。
・リフレッシュによる社員のモチベーション向上
 仕事以外の時間をリゾートなどでゆったりと過ごせば心身の疲れを癒やせる。家族と一緒の時間をつくり、コミュニケーションを図る機会にもなる。休暇がもたらすリフレッシュ効果により仕事に対するモチベーションの向上も期待できる。
・効率的な業務の推進
 短時間に限定的に仕事をすることで、かえって効率的に業務をこなせるという効果が期待できる。ワーケーションは集中力が途切れず、生産性が上がるといわれる。リゾート地などいつもと違った環境で仕事をすることで、新しい発想やアイデアが得られる可能性もある。
・働き方改革の対策に有効
 企業側は働き方改革の取組みの一つとしてワーケーションを導入できる。社員の働きやすさをサポートすることで離職者を減らす効果が期待でき、採用活動では新しい人材を確保するためのアピールポイント効果が見込める。
A受け皿地域のメリット
・関係人口の増加
 ワーケーション施設の整備やワーケーション利用者との交流プログラムに自治体が関わることによって関係人口の増加が図れる。
・地域の新事業創出
 ワーケーションによる人材交流で、都心のビジネスノウハウを活かした新規事業創出の可能性が高まる。
・関連消費の拡大による雇用促進
 宿泊・飲食・地域観光収入の増加が見込まれ、雇用促進が図れる。

リゾート版コワーキングスペースとしてのワーケーションリゾート

 コワーキングスペースが通常のレンタルオフィスと違う点は、利用者が単なる場所の享受にとどまらず、そこに集まる人によって情報や知見やノウハウをもたらされることにある。ワーケーションリゾートがコワーキングスペースと違う点は、リゾートで家族と休暇を過ごしながら仕事をできることにあるが、さらにコワーキングスペースのようにそこに集まる人との交流に刺激を受け、信頼関係や共創関係が生まれる可能性があることである。
 現在、アクティブラーニングをはじめ多様化する「学び」を支える場として、総合的な自主学習のための施設「ラーニングコモンズ」を整備する大学が増えている。グループ学習、プレゼンテーション、ディスカッション、情報収集、語学学習、国際交流など、多目的な活用が可能な学習空間がラーニングコモンズだ。コロナを契機として働き方も学び方も大きく変わろうとしているが、すでに受動的ではなく能動的な学びの場、仕事の場づくりが行なわれている。重要な点は、その場所はオフィスでも教室でもない別の場所(サードプレイス)であるということだ。
 ワーケーションリゾートは「リゾート版コワーキングスペース」として機能させることが重要である。さらに、自然体験、家族との体験の共有をとおし、遊びや仕事を含む暮らしをよりよいものに再構築していく「コミュニティ型宿泊体験」を目指したい。ワーケーションリゾートはコワーキングスペースと一体的に展開するが、そのための設備投資はさほど必要としない。しかも既存のリゾート施設への導入が容易であるばかりでなく、平日の稼動アップの施策としても有効なコンテンツである。肝心な点は、ワーケーションリゾートビジネスの成否はハード(設備)面の充実ではなく、利用者同士の「コミュニティの組成」のサポートにかかっているということだ。
(つづきは本書で)

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ワーケーション施設の開設・運営計画資料集
ワーケーションリゾートの事業化手法と宿泊型コリビングの実態

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