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カマンベールチーズの認知症予防の可能性を発見
「機能性」プラス「美味しさ」で市場拡大目指す

  • シニアビジネス
  • 認知症予防
これまでも食品を通じた消費者の健康づくりに取り組んできた明治グループでは、2019年11月、白カビ発酵チーズの代表であるカマンベールチーズの摂取が脳由来神経栄養因子BDNFを増加させることを世界初のヒト介入試験で確認した。
その研究の成果と今後の事業展開について聞いた。

世界初のヒト介入試験で認知症予防の可能性を確認

 同社が最初に認知症予防の研究で成果を挙げたのは、実はカマンベールチーズではなく、チョコレートによるものだった。2014年、同社は愛知学院大学、愛知県蒲郡市との産学官共同での「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」を実施、カカオポリフェノールを多く含むチョコレートを継続摂取した場合、脳由来神経栄養因子である「BDNF」(BrainDerived NeurotrophicFactor)値の血中濃度が上昇することを確認した。当時、研究グループが血中「BDNF」濃度の上昇について意見聴取した専門家が、桜美林大学大学院教授であり、同老年学総合研究所所長の鈴木隆雄氏。
 鈴木氏は同時期、東京大学大学院が、キリン、小岩井乳業と共同で行なった基礎研究によって、カマンベールチーズにアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの沈着を抑える「オレイン酸アミド」と「デヒドロエルゴステロール」が含まれることを発見したことに着目。カマンベールチーズにおける認知症予防の可能性をさらに追求すべく、カマンベールチーズを製造・販売する明治に共同研究を提案したのだ。
「それまでも当社では他社に先駆け、栄養食品や流動食専用の自社生産工場を開設するなど、医療・介護分野には力を入れてきました。今回、一般的な乳製品で広く高齢社会の役に立てるのであればという思いから共同研究に取り組むことになりました」と、明治 栄養機能研究部の山地健人氏は振り返る。

図表 カマンベールチーズと対照チーズ
   摂取時の血中BDNF濃度変化率の比較摂取時の血中BDNF濃度変化率の比較

 こうして16年2月、同社と桜美林大学、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターによる共同研究がスタートした。この研究が画期的なのは「ヒトを対象としたランダム化比較試験」(RCT)という方法を選択した点にある。それまでは細胞やマウスなど動物を用いた基礎研究のみで、ヒトにおける効果は検証されていなかった。加えて、「一般の生活者」を対象に、特別な条件下ではなく、あくまで一般的な状況で行なうこと、食生活全般をコントロールすることができないため、本人が意図せず試験結果に影響する別の食品や栄養成分を摂ってしまう可能性もあることなど、非常にむずかしい状況が想定されたためだ。
 対象は、都内に暮らす70歳以上の高齢女性689人のうち、MCI(軽度認知障害)と判断された高齢女性71人。対象者を無作為に2群に分け、1つの群は白カビ発酵したカマンベールチーズ、もう1つの群は対照チーズ(カビ発酵していないプロセスチーズ)をそれぞれ1日2ピース(33.44g)ずつ3カ月間摂取してもらい、血中BDNF濃度を測定。その後、3カ月間のウォッシュアウト(休薬期間)を経て、摂取する食品を群間で入替え、同様に実施した。
 結果は図表のとおりで、カマンベールチーズ摂取時には血中BDNF濃度変化率が6.18%上昇したのに対し、対照チーズ摂取時にはマイナス2.66%と、カマンベールチーズ摂取時の血中BDNFが有意に高い値を示した。つまり、MCIの高齢者において、カマンベールチーズの摂取がBDNFを増加させ、認知機能低下抑制、ひいては認知症予防の可能性が強く示唆されることとなった。
(続きは本誌で)
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