Alan Kam氏[AB Capital Investment]に聞く
INTERVIEW|対日投資の狙い
ファミリーオフィスは、富裕層投資家を背景とした投資運用会社。不特定多数の機関投資家・ステークホルダーを擁するファンドAM会社と異なり、投資運用の意思決定が速く、運営戦略の柔軟性が高いことが特徴である。
AB Capital Investmentは、アジアの名門ファミリー・ファミリーオフィスなどを数多く顧客投資家とするプライベートエクイティファームだ。パンデミックの禍中に日本市場へ参入し投資を開始。その後も引き続き積極的な投資スタンスをもつ。
同社CEOであるAlan Kam氏に対日投資の狙いと、今後の投資方針について話を聞いた。
――日本のホテルに特化して投資する理由を教えてください。
Kam 日本のホテルに投資する理由は、そのファンダメンタルズが良好で、伸びしろが大きいからです。
日本は年間訪日外国人数が2024年に約3,700万人と過去最多を記録しながら、新規のホテル供給が限定的なこと、中国本土からの旅行客がまだ完全に回復していないこと、大阪万博の開催や統合型リゾートの開業が控えることがプラス要因です。また、ファイナンスコストの低さも大きな理由です。先進国の中で唯一イールドスプレッドがポジティブで、いま高金利にあえぐグローバルファンドの参入を促しています。一方で、ホテルにはインフレ耐性があります。日本経済がインフレ環境にある状況下では、オフィスや住宅と違い、ADRを日々更新できる利点があります。
――パンデミック中である2020年の日本でなぜ投資が実行できたのですか。
Kam 殆どの投資家は日本でのホテル投資を手控えていましたが、私は日本に参入する絶好の機会を捉えていました。なぜならば、宿泊需要の落ち込みは一時的であり、加えて、日本の観光市場の土台の強さに確信がありました。日本はアジア、さらには全世界で最も魅力的な観光地の一つであり続けています。
――当時、多くの国内勢も身動きとれない中、確信を持てた理由は。
Kam 父の仕事が影響しています。幼少期の頃、父は北京でグランドハイアットホテルやオリエンタルプラザショッピングモールの開発責任者を務めていました。父の仕事ぶりを見て、ホテルのデザインと事業に深く魅了され、子供ながらに投資可能性調査を行い、父に対して提案をするために事業計画を作成していた経験があったのです。その当時からホスピタリティ市場に狙いを定めていました。そして、2020年にいよいよ投資好機が到来したとみて全力で日本への投資に踏み切ったというわけです。
――初の投資案件はどのようなものでしたか。
Kam 当時はインバウンド需要がないため、投資は国内の旅行者を中心とするローカルブランドのホテルを対象としました。運営は安定的な収益確保を重視、オペレーターとの契約を固定賃料としています。
それでも、パンデミックの禍中であったため融資確保は容易でありませんでした。しかし契約が固定賃料で、かつ契約先オペレーターがパンデミック中でも高い稼働率を維持していることを評価してもらい、調達できました。その後、パンデミックの収束とともに、順調なペースで投資を拡大。2025年3月時点で東京に5棟、大阪に2棟、京都に1棟の合計8棟を取得済みです。さらに直近では、草津の宿泊施設1棟のクロージングを控えています。今後も、日本のホテル市場の成長を確信しており、継続的に投資を拡大していく方針です。
――順調に日本でホテル投資を進めている御社ですが、その強みは何でしょうか。
Kam 当社の強みは、大きく分けて4つあります。
第一に、ファンドストラクチャーです。構造上はファンドでも、マインドセットは投資家やオーナーに近いものです。これは、GPおよび当社メンバーのコミットメント金額の合計が、ファンド内で最大級のLPの一つであるためです。結果、各案件の投資判断を単なるファンドマネジャーとしてではなく、オーナーの視点で行います。リターン最大化だけでなく、潜在的なリスク分析や軽減策を重視しており、これによりLP投資家から高い信頼と共感を得ています。
第二に、即応能力の高さです。フラットな組織構造により、意思決定が迅速です。案件の獲得から意向表明書の提出までを、必要に応じて数日以内に完了できます。また、社内に法務機能を備え、必要な文書の作成や対応をスピーディーに行える点も強みです。
第三に、投資対象の明確さです。日本のホスピタリティ市場に特化、中規模ホテルへ戦略的に注力しています。
最後に、誠実かつ勤勉に案件へ全力で取り組む姿勢です。当社は約束を大切にし、問題が発生した際にも多角的なアプローチで検証し、解決策を模索します。
「できない」という結論を安易に出すことはありません。この姿勢が市場で高く評価され、売主や仲介業者をはじめとする協力企業からの信頼につながっています。
(AB Captal Investmentの投資クライテリア、今後の投資方針など続きは本誌で)