東渡ジャパン
CASESTUDY|強い資金(短期)
東渡ジャパンは、中国・上海に拠点をおく総合不動産会社、東渡国際集団の日本法人である。東渡国際集団は上海、南京、成都などで面開発を手がけるほか、カナダ、米国にも進出している。日本法人は2017年1月に設立。住宅、オフィス、ホテルなど約450億円の投資実績を重ねており、とくに住宅では約30棟・約200億円規模の実績がある。
日本の不動産市場への参入は、「主要国と比較して、テナントや賃料単価の粘着性が高く、収益の変動性が相対的に小さく、安定性が高いと評価してのこと。さらに情報の非対称性が高く、独自ルートを開拓することで隠れた優良物件や割安物件を発掘しやすい点も魅力」と話すのは、代表取締役の王偉氏。
その投資手法は、いたってシンプルで、新築ないしは築浅の賃貸マンションを一棟で取得し、半年~1年の短期で売却するというものだ。取得した約30棟の賃貸住宅のうち約7割にあたる20棟を売却済み。これを繰り返すことで手元資金を複利で増やし、資金効率の向上を図っている。目標リターンはIRRベースで約35%以上としている。
投資エリアは住宅の場合、東京、渋谷、新宿、品川、池袋などの中心業務・商業地から電車で約20分圏。具体的には板橋区役所前(城北)、森下(城東)、高円寺(城西)など。間取りは単身者~DINKS向けが主体。都心への人口流入は当面続くことを見込み、現役世代のワーカー層のニーズを取込みやすいエリアで、とくに築浅・新築物件をターゲットとしている。
その理由は、物件瑕疵が少なく、デューデリジェンスにかかる費用・時間を節約しやすい。短期でのリーシングおよび売却を考えると競争優位性を発揮しやすい」(常務執行役員 兼 投資事業部長 安部浩平氏)ためだ。
一棟あたりの取得金額は5~10億円。この規模のマンションは開発・供給が多く、選択肢が豊富なうえ、ファンド・REITとの競合が少なく、比較的割安で取得できるチャンスが多い。「利回りや賃料水準より、むしろ割安であるか否かの基準として坪単価を重視している。都心近郊の場合300万円台前半が一つの目安」(王偉氏)。
直近では「Septet西早稲田DDI」(新宿区)、「Stellar 西糀谷DDI」(大田区)、「Laforte 下井草DDI」(杉並区)などを立て続けに取得した。
賃貸住宅の取引市場は高値圏で取得競争が激しい。そうしたなか良質な物件を獲得できている理由は、意思決定の速さにある。「親会社の資金を運用するファミリーオフィスであり、複雑な意思決定プロセスは要しない。最短3日で買い付け、契約するまで14日という事例がある」(安部氏)。
また、10名以下という少人数体制ながら、大手デベロッパー、AM会社、不動産仲介会社などさまざまなバックグラウンドをもつ経験豊富な人材をそろえ、仲介経由のほか、デベロッパー直のフォワードコミットメント、他社と協業するかたちでの開発など多様なネットワークや手法を通じて投資機会を発掘している。「投資実績を積むことで、開発や土地取得の段階から相談を受けるケースが増えてきた」(安部氏)。
なお多様なネットワークは売却時にも生かされており、出口先として国内上場デベロッパー、米系や東アジア系のファンド、そのほか国内富裕層などさまざまな買い主が顔をそろえている。あるいは投資規模を求める買い主の場合には、自社物件に加え、他社の物件を合わせることで数十億円規模のバルクディールとして成立させた事例がある。
2024年は通期で約50億円の投資を完了させた。3年程度の短期では年100億円、中期的には年約300億円の投資を手がけたい考えだ。投資クライテリアは引き続き一棟ものの賃貸住宅を主体におくが、オフィスやホテル、開発用地にも積極的に取組んでいく。
オフィスについては、都心好立地の中小ビルに着目している。ストック規模が大きく、バリューアップによるアップサイド余地が大きいと考えるため。ホテルについてはすでに熱海で開発用地5,100㎡を取得済み。こちらは建築確認をとったうえで運用する方針である。このほか国内外富裕層から人気の高い都心立地の区分タワーマンションへの投資をはじめている。
「常に市場の変化を敏感にとらえ、意思決定にスピード感のある組織づくりを意識している、スピード感は単なる速さだけでなく、機動力と柔軟性を兼ね備えた組織の根幹をなすものだと考えている。東アジアで日本市場のステータスは随一。マーケット規模・流動性のほか、日本の歴史・文化そのものが好きという海外投資家がいる。近い将来、こうした投資家の資金を受託し、運用することを考えたい」と王偉氏は話している。
(その他、2025年注目の強いプレーヤー・有望アセットタイプなど特集企画の詳細は本誌で)