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――尾熨斗啓介

省エネ基準適合義務化
環境認証取得に及ぼす影響と対応策

【新連載】不動産アセットマネジャーのための環境認証実践講座

建築物の省エネ計算の専門家という立場から、環境認証取得に取り組むREITや不動産ファンドの方々をサポートしている尾熨斗と申します。本連載を通じて、環境認証取得に役立つ情報をお伝えしていきます。
第1回目は、2025年4月から施行される「新築建築物の省エネ基準適合義務化」が、既存建築物の環境認証取得に与える影響を解説していきます。

すべての建築物が適合義務に

 建築物省エネ法の改正では、原則すべての新築建築物において省エネ基準適合が義務化されます。かかる条件を満たさない建物には、確認済証が発行されず、着工できなくなります。ちなみに現行の建築物省エネ法では、適合義務の対象となる建築物は、300㎡以上の非住宅で、住宅は届出義務、300㎡未満の住宅・非住宅は説明義務に留まっていました。改正によって、すべての建物に適合が義務化されると、どんな問題が起こるのでしょうか。

省エネ計算需要がひっ迫
着工難民溢れる恐れ

 国土交通省の調査では、2020年に省エネ基準の適合義務対象となった300㎡以上の非住宅(簡単に言えば中・大規模ビル)の棟数は約1.5万棟程度でした(一方で適合義務のない住宅と小規模非住宅は約45万棟でした)。2024年現在でもこの数値はほぼ同じと考えてよいと思います。
 それが来年以降、省エネ計算を要する新築建築物は一気に増加、およそ10倍になる(※1)と推計されています。加えて、既存建築物の環境認証取得・更新もあるため、省エネ計算が必要となる建築物の数はさらに増加します。増加に対して省エネ計算を代行している会社(個人含む)は、現状50~60社程度に過ぎず、その対応が極めて困難となるのは明らかです。省エネ計算ができずに、省エネ適合性判定を受けられず、着工できない「着工難民」が大量に発生する恐れがあります。

省エネ計算会社の奪い合い

 省エネ計算代行会社は需要増加に備えて、安定した対応を可能とする体制づくりを急いでいます。需要がますます増える業界なので、新たな省エネ計算代行会社も増えるでしょう。なかには計算代行会社を頼らず、自社で省エネ計算に対応する会社も出てくるでしょう。
 しかしながら、安定した体制作りには時間とコストがかかり、経験や知識が十分に蓄積されていないうちは、正確性もスピードも担保できません。よって、需要に供給が追い付くまでの間、実績豊富な省エネ計算代行会社のリソースは奪い合いとなる可能性があります。適合性判定のための計算費用や、申請代行費用が上昇。その影響として、環境認証取得にかかる代行費用も上がっていくのは間違いありません。

スピーディかつ慎重なパートナー選びを

 REITや不動産ファンドのような、決算を見据えながら予算を組み、計画的に環境認証を取得している方々には無視できない問題ではないでしょうか。
 問題の解消策を助言しますと、少なくとも来年の3月までに、できる限り環境認証取得のスケジュールを組み、省エネ計算や環境認証取得を依頼可能な会社を押さえておくとよいでしょう。
 法改正直前に省エネ計算の駆け込み需要が殺到すると考えると、余裕をみて2月までにスケジュールを組んでおくのが得策です。それ以降も定期的に認証を取得していくためには、安心して任せられるパートナー会社を見つけるのがベストと言えます。
 ただし、パートナー会社は慎重に選ぶ必要があります。環境認証取得をサポートしている会社でも、業務内容と業務範囲の説明が不足していたり、ひどい場合には約束した納期を守ってもらえないトラブルが発生することもあります。
 認証取得時に、目標ランクを定めている場合もあると思いますが、目標に届きそうになかった場合、ほとんどのサポート会社は、どこに手を加えればランクを上げられるかアドバイスしてくれます。ですが、担当者が建築・設計に関する知識に乏しいと、不動産を運用していく上でありえないような提案をしてくることもあり得るのです。にわかには信じられないかもしれませんが、まだ認知の広がっていない建築物の環境認証の世界では十分に考えられることです。
 また、BELSやCASBEEなどの環境認証は、それぞれ評価項目や取得できる条件、取得のメリットなどが異なります。そのため、建築物の用途や規模によって取得するのに適した環境認証があり、それを理解していないと予想外に手間や費用がかかってしまう場合があります。
 費用に関しては、物件によっては数十万~数千万円単位にもなるため、最適な環境認証を選択することも無視できない問題なのです。費用を抑え、効率的に認証を取得するためにも、より知識の深い、信頼できるパートナー会社を選ぶことが大切です。
 よりよいパートナー会社を選ぶには、ホームページなどから情報を集めることはもちろん、実際に担当者と話をしてみて、対応の質や知識量を見極めることが肝心です。
 来年2月までに認証取得のスケジュールを組むことを念頭に入れると、あまりパートナー会社選びの時間は残されていないと言えます。不動産の環境認証取得、ひいてはESGを担当されている方は、今すぐにでも動き始めることをお勧めいたします。
 次回は「難易度の高かった共同住宅のBELSが4月以降取得しやすくなった」ことに関するテーマでお伝えする予定ですので、ご興味のある方はぜひご一読ください。

※1——省エネ計算をせずに省エネ基準を満たしているとみなすことができる仕様基準の適用など、適合性判定を必要としない建築物もあります。


尾熨斗啓介
環境・省エネルギー計算センター(運営会社:HorizonXX)代表取締役。1977年長野県生まれ。日本大学理工学部建築学科、日本大学大学院理工学研究科不動産科学専攻卒業。新卒で大手日系証券会社に入社し、新規ビジネスである不動産ファンドアレンジメント、REIT主幹事業務、その後、大手外資系証券会社にて同様の業務に従事。2012年HorizonXX創業。現在は建築物の省エネ計算の専門家として環境認証取得サポートを行う。

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