[抜粋版]
2023年の地価調査で、全国トップクラスの地価上昇率を記録した自治体が北海道千歳市だ。
国内大手企業8社が出資し、国産の最先端半導体量産を目指すRapidus(ラピダス)の工場が建設されることを契機に、不動産需要が大きく高まっている。その現況と先行して需要を取り込もうと動く不動産プレーヤーの動きをまとめた。
各都道府県が発表した地価公示によると、全国全用途でみた地価上昇率の上位10地点のうち6地点が千歳市の基準地だった[図表1]。用途ごとにみていくと、住宅地では全国1~3位を独占、商業地では同2~4位にランクイン、工業地では同3位に名を連ねた。
その要因がラピダスの半導体工場建設である。JR千歳線を挟んで新千歳空港の反対側にある工業団地「千歳美々ワールド」で2023年9月より建設が進んでおり、稼働開始は25年を予定[図表2]。プロジェクトの総投資額は5兆円におよぶとされる。
建設中は、設計施工者の鹿島建設をはじめとする工事関係者がピーク時に(建築と設備合わせて)6,000人程度従事すると想定。操業開始後は500~600人の技術者を含め1,000人程度が従事すると想定されている。それに伴い、住宅やホテルの需要が急速に増大。またラピダスと取引を行う企業によるオフィスや物流施設の需要も増えているところ。これを受けて、さまざまなプレーヤーが千歳を中心に用地取得や新規開発の動きを強めているのだ。
北海道に地盤をおく不動産会社のアルファコートは、千歳市内で7棟の賃貸住宅を保有している。これらの稼働率は現在97%で推移している。2023年初頭に取得した210戸規模の物件では、3か月間で約100戸成約に至ったという。
「空港の発着枠拡大で深夜早朝に勤務する関係者の住宅需要が高まると判断し、10年前から千歳で投資を開始。札幌市内並みの賃料が取れると分かり、投資を継続してきた。現在はコロナ収束で回復した空港関係者の需要に、ラピダス関係者の需要が重なっているようだ」。そう話すのは、取締役副社長の樋口千恵氏である。
アルファコートは千歳市内で新たに5棟の賃貸住宅開発を計画中。保有物件は単身者向けの間取り(1LDK)主体だが、開発物件はファミリー向けの間取り(2LDK・3LDK)も一部混ぜることを検討しているという。「工場の操業開始以降の住宅需要は正直なところ読み切れない。だからこそファミリー向け物件も用意して需要の受け皿を広げていく」(同氏)。
同社以外にも、北海道空港グループのセントラルリーシングシステムが、市内中心部にあった商業施設「千歳タウンプラザ」跡地に地上10階建ての賃貸住宅を開発中。道外のプレーヤーでは、福岡のウェルホールディングスが2棟の賃貸住宅開発を計画している。
アルファコートは、市内中心部で「ベストウェスタンプラスホテルフィーノ」と「JRイン千歳」という2棟の宿泊特化型ホテルを保有しているほか、2棟のホテル開発を計画している。
「千歳のホテルは、深夜早朝便の利用客や周辺のゴルフ場に向かう客の需要を取り込み安定稼働してきた。コロナ禍の最中も稼働率は7割程度を維持し、札幌で保有するホテルより高稼働だった。そこにラピダス関連の需要が加わっている」(樋口氏)。ラピダス関連の需要に関しては、駅前のホテルでは半導体の技術者などのホワイトカラー、ロードサイドのホテルでは工事関係者などのブルーカラーが需要の中心だろうとしている。
同氏によれば、ホテル開発地の情報をオペレーターに出す際、札幌より千歳の方に強い関心を示すオペレーターもいるとのこと。従前からの需要の安定性とラピダス進出による需要の伸びしろのほか、既存運営ホテルとの商圏のバッティングが生じにくい点も理由とみられる。
月刊プロパティマネジメント2024年3月号では、千歳市内の住宅・ホテル以外の動きや、開発における課題についてもまとめている。