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中村裕一 氏 [法人営業本部] に聞く

野村不動産ソリューションズの「着眼点」

野村不動産ソリューションズは、物件の取得・売却に伴う情報提供・取引支援のほか、不動産鑑定やCREコンサルティング、建築コンサルティング(CM事業)をワンストップで対応する。同社から、取引マーケットの動きについて話を聞いた。

【市況感】
プレーヤーシフト、海外尻目に取引は活況

 昨年まで旺盛な買い意欲を見せていた米系グローバルファンドが新規投資に慎重となり、それまで鳴りを潜めていたアジア系ファンドやファミリーオフィスが取得を活発化させている。また、強気な価格で物件を物色していたグローバルファンドや韓国勢が売りに転じたことで、国内私募ファンド、私募REITや一部上場REIT、小口化ファンドプレーヤー、安定収益資産の長期保有を目的とする一般事業会社、富裕層などの国内投資家が総体的に取得意欲を高めている。
 売り手は、運用出口を迎えたグローバルファンドのほか、この先の金利高、オフィス空室率UPに備える構えの一部ビルオーナー、あるいはアクティビスト対応の観点からノンコア資産の整理を進めるPBR1倍未満の上場会社などが目立ってきた。
 このように、金利、景気動向が不透明で、将来の各アセットに対する見立てがプレーヤーによって異なること、買い/売りの双方ともプレーヤーが一定程度入れ替わることで、これまでと異なるクライテリアのもと新しい取引機会が創出されることにより、マーケットの活況が続いているというのが現下取引マーケットの様相である。われわれ仲介・コンサルティング会社としては好環境と言えるだろう。
 なお金利上昇が意識される局面にあるが、現実的にみれば限定的とみている。

【賃貸住宅投資】
郊外か都心志向か、2つの流れ

 2つの大きな流れが混在したマーケットと言える。ひとつは郊外・地方都市のコンパクト・ファミリータイプを志向するという流れ。もうひとつは、それとは逆に都心エリアのワンルームにフォーカスする流れである。
 前者は、都心立地のワンルームという高騰市場を避け、より有利な利回り水準で取得しようという狙いがある。郊外・地方一番立地のマンションはパンデミックを通じ強固な収益を創出しており、ポートフォリオの安定性強化につながると考える投資家も少なくない。
 後者は、都心エリアが2030年まで人口流入が続くこと、23区の1/2が単身者世帯であることを改めて評価したものだ。あるいは大手グローバルファンドが鳴りを潜めるなか、取得競争が緩和した今を好機と捉えたものといえる。
 このほか、より有利な事業・投資機会を見出す狙いから、一般的な住宅から派生した資産を志向する動きもみられる。足下では「ペット共生型」はもとより、音楽学校の生徒やユーチューバーを入居対象とした「防音型」、住宅の派生資産として、末期がん患者など終末ケアサービスを提供する「ホスピス住宅」、「アフォーダブル住宅」などを手がける動きもみられる。

【オフィスビル投資 】
中規模以下のビルの取引活況

 NYやロンドンなど世界主要都市の空室率は過去最悪水準だが、こと日本・東京は出社率が高く空室率も低位を維持している。一部で本社床を縮小するケースもあるが、そのぶんサテライトオフィスを設けるなど、総床需要はコロナ前と比べそれほど大きな増減はない。投資家の多くはこうした状況を好感、オフィスは依然主要アセットとしての地位を保っている。とりわけS・Aクラスビルは投資規模、インフレヘッジとしての賃料上昇期待、トロフィーアセットとしての顔の良さから人気は非常に高く、引き続き高値で取引されている。
 一方で中規模以下のオフィスビルは、立地環境が良好、かつ築20~30年を経過した物件を中心に堅調な取得ニーズがあり、買い主の多くはバリューアッドファンド、国内中堅の不動産会社である。大規模リニューアル、セットアップオフィス化することで、おおむね20%程度の賃料アップを実現できているケースも多い。この分野は大手が手付かずで物件数も多い。当面活況が続くとみている。
 このほか、都心から30km圏内にある延床面積1万㎡までのサバーバン(郊外)オフィスビルを物色する動きがある。企業の研究開発拠点として大規模リニューアルを実施する計画で、賃料は30~50%の大幅増を見込んでいるケースもある。

【物流施設・データセンター投資】
都市型、その他インダストリアル資産に関心がシフト?

 ECや3PL事業者からの床ニーズは依然として強く、とくに東京湾岸・千葉内陸部のAクラス立地は賃貸・売買マーケットともに好調が続いている。一方、埼玉・茨城の圏央道沿いなど開発プロジェクトが林立している一部エリアでは供給過多が懸念され、とりわけ一般的な常温輸配送・保管(ドライ)型はリーシングが期待通り進まないプロジェクトも散見される。デベロッパーのなかにはプレリーシング段階から苦戦を察知し、倉庫会社などの実需向けに早期に売却を図る動きがみられる。
 そうしたなか事業者は、冷凍冷蔵倉庫やラストワンマイル型と呼ばれる都市型物流施設に関心を強めている。とくに冷凍冷蔵倉庫は、ドライ型より割高となり開発ハードルも高いが、冷凍食品の消費増と特定フロン(HCFC)の製造・使用禁止を定める、いわゆるフロン規制によって、この先食品会社からの旺盛な床ニーズを見込めそうだ。
 同じインダストリアル関連資産では、データセンターへの関心が急速に高まっている。IoT、AI などの普及、ビックデータ利用拡大を背景に、ニーズは爆発的に増大している。自動車の自動運転ニーズなどを考えると、安定的な電源を確保でき、データ伝達の速度が重要なファクターとなることから、東京・大阪の中心部の都市型、大都市圏から15Km以内のラストワンマイル型、印西などのデーターセンター集積地より15Km以内の追加取得ニーズは根強い。またデータセンターは、長期契約が締結可能な上、投資における土地と建物のコスト比率が1対9程度の案件が多く、先行投資が少なくファンドが取り組みやすい点が魅力だ。実際に国内外の大手ファンド、デベロッパーが取り組みを強化している。

【商業施設投資】
RSCを再収益化する動き

 引き続きネイバーフッド型ショッピングセンター(NSC)など、生活密着型中心の取引となっている。あるいは集客力が頭打ちとなったリージョナル型ショッピングセンター(RSC)を取得する事例がみられる。RSCについては、まず余剰となった商業施設の建物・床を解体し、適正規模にダウンサイジングの上、空いた敷地に分譲マンションやホテル、物流倉庫などを建設、再収益化をめざすもの。成功すれば大きな利幅が確保できることから関心を示すファンドやデベロッパーは多い。
 都市型商業施設についてはインバウンド客回復の流れを受けて、ハイストリートの空き床が徐々に解消に向かいつつある。ただし売買となると、売り側の価格目線は依然としてコロナ前の高値圏にあり、取引は難航している。1階フロア坪賃料が30万円を超えるSクラス立地の物件は、国内外の富裕層が利回り度外視で取得する事例がある。

【ホテル投資】
コロナ前の高値を上回る

 インバウンドなどの観光客やグループ客増加を念頭に、変動賃料、MCなどの契約形態で、客室面積が広くグループ単位での宿泊が可能な、中・長期滞在に対応可能なホテルを志向する投資家が多い。買い主は国内外のファンドに加え、東南アジアのファミリーオフィスが参戦。浅草や上野、心斎橋などわかりやすい観光立地にある物件取引価格はコロナ前の高値を上回って推移している。
 また、コロナ禍で売上が減少し設備投資が出来ていない地方観光地のホテルを購入、追加投資し、プロのオペレーターを入れ、再生させる試みを行っているファンドや、徹底した省人化により損益分岐点を下げ、稼働率が低くても利益が出る仕組みを作り上げているファンドも存在する。
 一方で、地方都市の工場近くなど、出張需要減少の影響を大きく受けたビジネス特化型ホテルは不人気となっている。
 ホテルマーケットの長期的な成長を見越し、京都のほか、ニセコや白馬などの著名観光・リゾート地でラグジュアリータイプのホテルの開発機会を求める投資家が増えてきた。これらのホテルでは、現状の人出不足や高騰するオペレーションコストを考えると、低いADRと高い稼働率で稼ぐバジェットタイプから、高品質サービスを売りにADRそのもので稼ぐスタイルが重視される傾向がある。

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