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――東急歌舞伎町タワー

“好きを極める”コンテンツで
体験価値と不動産価値を最大化

新宿カブキhall~歌舞伎横丁(©TOKYU KABUKICHO TOWER)
全10店舗が軒を連ね、MIYASHITA PARKの「渋谷横丁」を手がける浜倉的商店製作所が運営

ミラノ座跡地の超大規模再開発
ホテル・エンタメ以外は想定せず

THEATER MILANO-Za(左)(©TOKYU KABUKICHO TOWER)
総客席数は907席

Zepp Shinjuku (TOKYO)/ZEROTOKYO(右)(©TOKYU KABUKICHO TOWER)
東急レクリエーションやソニー・ミュージックエンタテインメントなどが合弁で立ち上げたTSTエンタテイメントが運営

 東急と東急レクリエーションは、ホテル、映画館、劇場、ライブホールなどで構成される複合施設「東急歌舞伎町タワー」(東京都新宿区)を4月14日に開業した(ホテルの開業は5月19日)。地下5階地上48階建ての超大規模施設でありながら、ホテルおよびエンターテインメント機能のみの構成という、国内では類を見ないプロジェクトだ。総投資額は750億円におよぶ。
 地下1~4階はライブホール「ZeppShinjuku (TOKYO)」、1~5階は飲食店とアミューズメントコンプレックスなど、6~8階は劇場「THEATERMILANO-Za」、9~10階は映画館「109シネマズプレミアム新宿」、17~47階はホテル「HOTEL GROOVESHINJUKU, A PARKROYAL Hotel」「BELLUSTAR TOKYO, A PanPacific Hotel」とレストランで構成される。
開発地は西武新宿駅の東隣、シネシティ広場を挟んで新宿東宝ビルの西隣という場所にある。2014年までは映画館「新宿ミラノ座」などの複合娯楽施設「新宿TOKYU MILANO」が営業していた。また老朽化に伴う閉館後は、跡地暫定利用として17~19年の間、エンターテインメント施設「VR ZONESHINJUKU」が営業していた。
「再開発計画を立てていた2016~17年頃は、インバウンド客が急激に増加中の時期で、彼らにとって観光の目的地かつ起点となる施設づくりを志向していた。古くは宿場町として栄えた江戸時代にはじまり、戦後復興期を経てエンターテインメントの一大拠点として発展した歌舞伎町を、世界レベルのエンターテインメントシティに昇華させたいと考えた」。そう語るのは、東急の執行役員 新宿プロジェクト企画開発室 室長 木村知郎氏である。
 開発を進めていた最中にコロナ禍に見舞われ、社内では計画の中身に対し疑問の声も上がったという。「それでも都市がもつ人々を吸引する力の強さを信じ、計画の大筋は変更せずに突き進んだ。幸運なことにインバウンド客含め人流が急激に回復し、コロナも5類に移行しようとする申し分ないタイミングでの開業となった。開業初日の賑わいぶりはとても印象に残っている」(同氏)。

立地・建物による不動産価値を
ソフトコンテンツにより昇華

HOTEL GROOVE SHINJUKU(@カラー)
総客室数538室。畳敷きの部屋も用意。期間限定で「エヴァンゲリオン」の各パイロットをテーマにした「LIFESTYLE HOTEL EVA」をオープンした 

 東急歌舞伎町タワーのコンセプトは“好きを極める”で、エンド顧客の嗜好を深掘りしていくことを念頭に置いている。つまり、建物ハードのスペックをことさらにうたうのではなく、ソフトコンテンツを前面に打ち出している。
「立地に基づく価値を伸ばすには限界があるし、建物スペックに基づく価値を伸ばすにも限界がある。不動産価値の限界を突破する手段は、優れたソフトコンテンツ」(木村氏)。
 そのうえで、ソフトコンテンツにおいてとくに打ち出しているのがリアルな体験価値の提供だ。「体験価値は今後、不動産の価値を大きく左右するものになっていく」と木村氏は唱える。
 継続的な来館客の確保にも、リアルな体験価値の追求が有効だとする。これまでの商業施設の場合は主にセール開催で集客を図ってきたが、エンド顧客の慣れやECの普及で効果が薄れていた。その場、その期間でしか体験できないコンテンツを充実させることで、顧客に飽きられにくい施設づくりを実現する狙いだ。これは施設全体での消費額を大きくすることにも寄与する。
「現職の前に渋谷1 0 9 の運営会社(SHIBUYA109エンタテイメント)でトップを務めていたときから、継続的な来館客の確保を問題意識として捉えていた。顧客の嗜好を多面的に刺激する戦略は、若者だけでなく上の世代にも通用するはず」(同氏)。
 上記のコンセプトを体現する取り組みの第1弾として、人気作品「エヴァンゲリオン」を題材とした企画「EVANGELION KABUKICHOIMPACT」を開業直後に開始した。これは過去に同作品の劇場版が新宿ミラノ座で上映されていたことに由来するものである。
 具体的には劇場にてオリジナル舞台を公演したほか、映画館にてシリーズおよび関連作品を上映、ライブホールにて関連楽曲のスペシャルライブを開催、ホテルにてコラボルームを設置するなどしている。「エヴァファンにとっての有名スポットとなれたら、施設全体の集客ひいては不動産価値にも大きなプラス効果をもたらすはず」と木村氏は期待を寄せる。
 これと似たような取り組みとしては、歌舞伎町出身のメンバーを擁するロックバンドSUPER BEAVERのライブを開催、映画館やホテルでのコラボ企画も実施している。

ナイトタイムエコノミー囲い込み

namco TOKYO(©TOKYU KABUKICHO TOWER)
アルコールも提供するカフェバーを併設

 東急歌舞伎町タワーが取り込みを強化するニーズのひとつとして、ナイトタイムエコノミーが挙げられる。ライブホールは夜間になると「ZEROTOKYO」という名称のナイトクラブとして営業するほか、2階のフードホール「新宿カブキhall~歌舞伎横丁」は午前5時まで、3階のアミューズメントコンプレックス「namco TOKYO」は午前1時まで営業する。
「開業直後の時点ではインバウンド客が夜間のメイン客層で、遊び慣れている彼らも満足してくれているように感じる。夜のエンターテインメントは成長期待の大きいソフトコンテンツと考える」(木村氏)。上層階のホテルとの連携にも関心を抱いており、「たとえば夜間対応のベビーシッターを配置し、子供連れでも気兼ねなく夜を楽しめるようにすれば面白いかもしれない」とする。
 一方で夜の歌舞伎町という条件を考えれば、事件・トラブル発生のリスクは懸念されるところ。それについては警備スタッフの増員、入口でのボディチェックやID チェックの強化を検討していると説明する。

開業1か月で100万人来館
ノウハウの横展開に意欲

 4月14日の開業以来、1日あたり平均来館者数は平日約2万人、土日祝日約3万5,000人を記録。開業から1か月経過した5月22日には累計来館者数が100万人を突破するなど、東急歌舞伎町タワーはおおむね好調な滑り出しを示している。利益目標については、施設全体のEBITDAで年間40億円の確保を念頭に置く。
 東急はグループ会社などを通じて、ホテルや映画館、劇場などを各単体で運営してきた経験こそあるものの、東急歌舞伎町タワーのように各機能を1つの建物に集約するのは初めての試みとなる。エヴァの企画のように、ソフトコンテンツで各機能を横ぐしにして価値を生み出すのは、ほかのグループ運営施設でも応用可能であるとしてノウハウ蓄積に努める構えだ。「物件を短期売却ではなく長期保有するスタンスでどっしり構えるからこそ、ここまで思い切った取り組みができる」(木村氏)。
 他社では三井不動産が2021年に東京ドームを子会社化するなど、スポーツをキーコンテンツとしたまちづくりを目指しており、「不動産×エンターテインメント」の潮流が今後広まりをみせるかもしれない。そうしたなかで東急歌舞伎町タワーがどれだけのパフォーマンスを示していけるか、大いに注目される。

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