――ヌビーン・リアル・エステート
米国教職員退職年金/保険組合(TIAA)傘下の不動産投資会社であるヌビーン・リアル・エステートは日本のシニア住宅を中心に学生寮、戸建住宅、シェアハウスなどに投資するファンド「ジャパン・オルタナティブ住宅戦略」を展開している。
TIAAやオランダの不動産投資会社Bouwinvest(ボウインベストメント)から約1億米ドルの資金を調達して目下物件取得を進めているようだ。シニア住宅市場への見方や投資の戦略について話を聞いた。
<取材対応者>
ハリー・タン氏 アジア太平洋地域リサーチ、ストラテジック・インサイト統括
スティーブン・バス氏 シニアディレクター、ポートフォリオマネージャー、ハウジング
――グローバルおよび日本のシニア住宅市場をどのように捉えているか。
タン 世界的な景気減速やインフレの高まりなどのリスクはあるものの、シニア住宅への投資機会は魅力的であり続けると考えている。世界人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は、2019年の9.0%(7.03億人)から50年には16.0%(15.5億人)まで増大すると予測されている。この傾向は先進国でより顕著に表れており、それだけでもグローバルで投資機会を探す要因としては十分といえる。
とりわけ日本は高齢化率が2022年で29.1%(3,600万人)、50年予測では38.0%(4,000万人)と、世界で一番高齢化が進んでいる。現在の高齢者向け施設は公的機関による介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)が50%以上を占めているが、高齢化の進展や国の財政難を考えると、民間による高齢者向け施設の整備がますます求められるようになるはず。さらに介護保険制度に裏打ちされた施設売上の安定性、オペレーターとの長期マスターリース契約に裏打ちされた賃料収入の安定性が、投資対象としての魅力を高めている。無論イールドスプレッドの大きさもポジティブに働いている。
――日本の不動産市場が世界的に注目を集めるなかで、賃貸住宅やオフィス、物流施設など主要セクターでの取得競争を避ける狙いから、シニア住宅に注目しているのか。
タン それは違う。シニア住宅市場は専門的な知識やスキルが必要なため現時点で競争は限定的であるが、あくまで前述の有望な長期ファンダメンタルズがシニア住宅に注目する理由である。
別の観点を話せば、シニア住宅投資はESGのトレンドと親和性が高いと考える。今後増え続ける高齢者に対し、介護・医療機能の備わった住まいを提供してQOL(Quality of Life )を高める点において、シニア住宅は社会インフラという側面があるのではないか。
――どのようなシニア住宅を投資対象とするか。
バス 介護付および住宅型の有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅が投資対象となる。物件規模はオペレーターが最も効率よく運営できる部屋数50~75室を想定。入居者の月額利用料が低価格帯のものから高価格帯のものまで検討可能だが、需要のボリュームが最も厚くてアンダーライティングしやすく、かつ流動性も高い中価格帯の物件が検討しやすい。検討エリアは首都圏、関西圏、中京圏で、物件周辺地域の人口動態を見極めて判断する。
――どのように案件を発掘していくか。
バス 私自身が20年以上にわたって不動産投資業界に携わり、前職で日本のシニア住宅特化型ファンドを運用してきた経験と人脈を活かす。デベロッパーやオペレーターをはじめ、シニア住宅投資に関わる各プレーヤーとコミュニケーションを密に取り、可能な限りオフマーケットの投資機会を模索したい。オペレーターのリースに関するコミットメントが前提だが、フォワードコミットメントの活用や開発案件への参画も検討できる。また今後数年のうちにオペレーター同士の合併など業界再編が進むはずで、オフバラニーズの形で投資機会が発生するものと捉えている。
――物件の運営を委託するオペレーターに求める要件は何か。
バス レピュテーションや高い入居率を維持している実績が重要。財務基盤や人員規模の重要性は言うまでもない。さらにIoT 技術を活用した入居者見守りセンサーの導入など、DXの推進具合もみている。介護ビジネスにおいてDXは人手不足軽減やサービス品質向上に不可欠と考えており、大手オペレーターはおおむね対応できている印象だ。
――ファンドの出口戦略については現時点でどう考えているか。
バス 国内外の REIT やプライベート・エクイティ不動産ファンドなどを含む機関投資家の買い手はすでに多く存在するが、このセクターは引き続き成熟し、幅広い出口オプションが生まれると期待している。
――最後に読者へ向けたメッセージがあれば聞かせてほしい。
バス 日本のシニア住宅は魅力的な投資セクターであり、海外投資家にもよく知られるようになってきた。当社は市場の成長とともに、日本のオペレーター、デベロッパー、その他業界関係者との協力関係の構築を楽しみにしている。
――ありがとうございました。
アジア太平洋地域リサーチ、ストラテジック・インサイト統括
不動産のファンダメンタルズに加え、構造的なメガトレンドを考慮した 2 つのアプローチで、国内セクターとローカル市場の予測を提供。また、既存および新規ファンドのポートフォリオ戦略の策定にも携わり、過去と未来の両面から分析を行っている。ヌビーン・リアル・エステート アジア太平洋地域投資委員会のメンバーでもある。2015 年にヌビーンへ入社する前は、グロブナー・リミテッドの調査部門長としてアジアの不動産市場に関する調査を指揮。それ以前は、MEAG パシフィックスター社でリサーチ&戦略計画担当バイス・プレジデント、JP モルガン・チェース・アンド・カンパニーでエコノミストとして従事。シンガポール国立大学で経済学と金融の経営学士号を取得
シニアディレクター、ポートフォリオマネージャー、ハウジング
2022 年に Nuveen に入社する以前は、データサイエンスの日本の住宅セクターへの応用に焦点を当てたブティック型投資コンサルタント会社である AR Capital Advisors を設立。それ以前は、CBRE インベストメントマネジメント、AEW、マッコーリーグループなどの不動産運用会社で東京を拠点とする投資チームを率い、投資委員会の委員を務めた。2010 年から 2018 年まで、オライオン・パートナーズ(アバディーンが吸収合併)のパートナーとして、日本の高齢者向け住宅・介護分野に特化した一連のバリュー・アッド・ファンドを率い、韓国と中国をカバーする投資委員会の委員を務めた。1998 年に不動産運用業界に入る