瀬戸 健氏[RIZAPグループ㈱ 代表取締役社長]
[TOP INTERVIEW]
――chocoZAPが2022年7月のブランドスタートから2年半となりますが、まずは現在の状況についてお聞かせください。
瀬戸 22年9月時点での会員数は6.4万人、店舗数は134店舗でした。そのほぼ1年後、23年8月には会員数日本一を達成(RIZAP調べ)し、24年11月現在、会員数約130万人、店舗数1755店舗に達しています[図表1、2]。
さらに、ブランド立ち上げから約1年10か月を経た24年5月には、全国47都道府県への出店も果たしました。
――当初、都市型のビジネスモデルとみており、地方への積極展開は意外でしたが、その事業性は。
瀬戸 地方店舗の割合は、23年6月時点では全体の27.6%でしたが、24年9月には35.9%へと拡大しています[図表3]。確かに大都市よりも1店舗当たりの会員数は少ないですが、chocoZAPでは基本的に無人運営のため通常より人件費を低く抑えられることから、十分利益の確保が可能になっています。chocoZAPの事業モデルは、商圏人口の少ない地方においても運営コストを極小化できるため、十分収益が見込めることが実証されました。
――貴社の事業全体のなかでもchocoZAPは収益拡大の強力なエンジンとなってきています。
瀬戸 はい。RIZAPグループ全体でみても、今期はchocoZAP事業がけん引するかたちとなりました。25年3月期第2四半期は約4.4億円の連結営業黒字を達成、前年同期比、前四半期比ともに約34億円の改善となっています[図表4]。
――あらためてchocoZAPという業態をみるといまや従来のフィットネスクラブとはまったく異なる文脈で成立しているように感じますが、現在の立ち位置をどう捉えていますか。
瀬戸 そもそもchocoZAPは従来のフィットネスクラブへの利用者の参加阻害要因となる「むずかしい」「不便」「値段が高い」を払拭し、「簡単」「便利」「楽しい」をコンセプトに運動初心者向け「コンビニジム」としてスタートしました。
基本的に24時間365日利用可能な無人ジムで、着替えや靴の履き替えは不要。運動だけでなく、セルフエステ、セルフネイルといった「美容」、一部店舗限定ではありますが、ランドリーやワークスペースといった「ライフスタイル」、カラオケやゴルフ練習ブースといった「エンターテイメント」などが楽しめる〝サービス業のコンビニ〞のような存在へと成長を果たしています[図表5]。
従来のフィットネスクラブは、どちらかというと上級者に寄った、生活のなかでもある種特別な場所だったと思います。それを若い人やライトユーザー向けにハードルをぐっと下げ、日常生活のなかにシームレスに融けこむものとしたところがポイントです。
――誰もが行きやすい、入りやすいというメリットは一方で退会もしやすいということになりませんか。
瀬戸 そうですね。しかし、〝辞めやすいがゆえに入りやすい〞ともいえます。私は辞めやすいことも1つの価値と捉えています。一般のフィットネスクラブはルールやマナー、契約期間の縛りがあるから利用者は入ったら抜けられないと感じて入会を躊躇ってしまう。ならば、辞めやすいけれど辞めなくてもいい、続けたいと思える環境をつくっていけばいいのです。
フィットネスクラブって、1度は行ったことのある人はそこそこいると思います。入ったり辞めたりを繰り返している人が少なくないのですが、chocoZAPでは辞めやすいがゆえに入りやすい特性を活かして、利用の「点」を「線」に伸ばしていく、つまりできるだけ長く、その距離を伸ばしていければいいと考えています。そこにエステや脱毛、マッサージ機があるから来店する、これらが運動のきっかけや理由になってもいいのです。無理なく楽しく来ていただけ、続けやすい環境をいかにつくっていくかが重要で、その結果、退会率も安定して推移しています[図表6]。
――日常生活を少し豊かにする場の1つとして、そこに行けばいろいろ楽しめる環境づくりが継続の要諦でもあると。提供するコンテンツの幅も広がってきているのはそうした理由からですか。
瀬戸 今日のようなインフレの時代でも、生活必需品の消費は落ちていません。しかし「コト消費」「自己投資」に関わるような、コロナ禍で言われたいわゆる〝不要不急〞にあたるものの消費は依然、鈍っています。コロナは明けても今度はインフレのおかげで自己投資、不要不急なもの、自分の空いている時間を楽しむことにはなかなかお金をかけられないのが現状ではないでしょうか。
そこでchocoZAPでは、必需品ではないものの自分たちの毎日を豊かに満たしていく、前向きになれる、楽しむための魅力あるメニューを選び、月額2,980円(税込3,278円)のなかで、追加料金なしに利用できる設定としました。使うたびに1円もいただかない、ということがポイントです。
――いまの時代の消費ニーズを読んでのことですね。これだけいろいろなメニューが楽しめるとなると、フィットネス以外のものだけを利用するケースも出ていませんか。
瀬戸 確かにカラオケは毎日だとか、コインランドリーは週2回とか、なかにはマッサージ機のためだけに来ている人などもいらっしゃいますね。しかし結局その多くはフィットネスマシンを利用されていきますので併用率は高く、相乗効果は十分出ています。われわれとしては、まずはその場に来てくださるということが一番なのです。
――一方、2024年を振り返ると、どのような課題があり、その解決に取り組んでこられましたか。
瀬戸 当社は22年6月にRIZAPグループのDX専門子会社であるRIZAPテクノロジーズ㈱を設立し、以来DX人財の積極的な採用・育成とともに、アプリ・サービス開発やECサイトの運営の内製化を進めてまいりました。入会時に無料で配布するスターターキット(体組成計とヘルスウォッチ)とchocoZAPアプリを連動させ、お客様のライフログを蓄積し、よりパーソナライズしたソリューションを提供したいと考えております。
サービス業は人が主体で、人件費が大きく占める業態ですから、そうしたなかで生産性をいかに高め、人に活躍してもらうかを考えたとき、無人化やDX化はもはや必然となっています。現時点ではロボットも一定の人的補助が必要な段階ですが、これからは完全自動化になる、そういう時代です。当社にとって24年は、実際に効率化できたものと逆に課題が浮き彫りになったものを分析し、改善を繰り返してきた年といえます。
<続きは本誌にて>