乗換えを含めた人流増大の好機を活かし市域に誘導する仕組みづくりがカギ
【拠点調査】
――従前の関西・中京圏に加え信越・北関東圏に開拓余地
北陸新幹線の始発・終着駅としてその優位性の最大化へ
今回の北陸新幹線延伸で、金沢、東京方面、また関西圏、中京圏方面の始発駅であり終着駅ともなる「敦賀」駅。新幹線の最終目的地である大阪方面への延伸がルートの選定も含め相応の時間が予想されるなかで、その存在感を増している。ここでは、敦賀駅周辺および市域の観光市場の状況についてレポートする。
<中略>
夏場の海水浴をピークに、冬場はカニなどの海産物を目的に来訪する需要が多く、人口約6万7000 人に対して23年度は317万人の観光客が訪れ[図表1]、福井市に次ぐ県内第4位。20年にコロナ禍で落ち込んだ集客も、現在は回復基調にはあるが、コロナ前にまでは戻っていないのが現状だ(19年度369万人、85.8%)。
それだけに今回の北陸新幹線の延伸開業、特に大マーケットである東京圏に対する期待感には少なからぬものがあったことは想像に難くない。ただ、(一社)敦賀観光協会事務局長代理の橋本貴史氏は「東京限定で言えば従来も東海道新幹線の米原乗換えで訪れることはできたわけです。なので、もちろん東京は重視すると同時に、われわれが期待するところとしては、長野県、新潟県、あるいは埼玉県などの北関東エリアの方々にとってより身近な存在になり、新たな地域交流が拡大することにあります」とする。
<中略>
明確な目的をもたない観光客をどう市域に誘導するか
開業を機に、敦賀駅前では新たなホテルや集客施設などの整備が進められた。当該エリアでは3月16日以降の人流がやはり確実に増大し、売上げが以前の2倍以上になったという土産物店のほか、飲食店にも行列ができるなど、確実にその経済効果がみられるという。その反面、市内の商店街や主に郊外に点在する観光拠点については、いまひとつとの声も聞かれる。
<続く>
――ベストセラーなし、検索機なし。書店の常識の裏を行く行政サービスとしての「知のインフラ」
駅前の土地区画整理事業官民連携でにぎわいの創出へ
「敦賀」駅前に22年9月に開業した「otta」(オッタ)。敷地面積約8,000 ㎡にホテル、芝生広場をはじめ、知育・啓発施設、子育て支援施設、物販・飲食店、カフェ、コインパーキングなどで構成される複合施設だ[図表2]。新幹線開業に合わせ整備された同施設について、開発の経緯から振り返ってみる。
<中略>
18年に公募、翌19年に土地活用事業優先交渉権者を東京のデベロッパー㈱青山財産ネットワークスを代表企業とするSPC合同会社に決定。その際の条件として、観光客だけでなく敦賀市民にとっても有益な施設とするべく、知育・啓発施設を市の事業として導入、運営する方針を掲げた。
同社が建てた建物の床の一部を市が借り上げることで、デベロッパー側にとって事業リスクの軽減にもつながるものとするほか、官民連携でにぎわいづくりに取り組む姿勢を打ち出した。
また、市ではこの場所に求められる機能として、「市民にとっては普段使いの居場所、観光などで来街した人には地域への玄関口という2つの機能を満たす場とすることを検討しました」と語るのは敦賀市まちづくり観光部まちづくり推進課まちなか振興係係長の西村勇人氏。そうしたなかでホテルや飲食、物販などは専門の民間企業に任せ、行政として市民にとって有用な要素として知育・啓発施設を構想、全国でも珍しい「公設民営の書店」として具現化を図ったのが「ちえなみき」である。
全国に例のない公設民営書店。指紋・観光客双方の受け皿に
「書店という業態に着目したのは、本が子どもから年配の方まですべての方をターゲットにできるコンテンツとして集客力をもつとともに、人々の居場所としての機能も兼ね備える点でした」(西村氏)。老若男女、市の内外隔てなく誰にも求められ、愛され、さらに特徴的な空間づくりを行なうことで、駅を利用する観光客の方にとっても1つの立ち寄り場になるものとして構想したという。
<中略>
開業後1年半で43万人が利用新幹線開業後はさらに7割増
22年9月の開業以来の実際の利用動向をみてみよう。「市としては開業1年で10万人程度の来店を目標にしてスタートしましたが、実際には3か月ほどで10万人を達成しました」(西村氏)。その後も利用は途切れることなく、今年2月末の1年半で累計約43万人にまで及んでいる。さらに新幹線の開業効果があり、今年3月から現在まで毎月、対前年同月比で約1.7倍にまで伸び、それまでの月約2.3万人から約4万人にアップしているという。
<続く>
――ミュージアムと食で当地の歴史・文化を伝える。GWには県内最高の集客伸び率も
歴史的遺構を活かし観光施設に
<前略>
03年に寄贈を受けた市では、同市の発展を牽引した「鉄道と港」の遺構を活かし、過去の史実を伝えるミュージアム機能の発現を目指し12年に「金ヶ崎周辺整備構想」を策定。その先導的プロジェクトとして15年10月、2棟を明治後期から昭和初期の敦賀の街並みを80分の1のスケールで再現していまに伝える「ジオラマ館」、同地ならではの魅力的な食を味わえる「レストラン館」に変更、観光施設として再生した。
開設に際しては指定管理者制度を導入、博物館の展示、運営などに実績のある㈱丹青社に決定。ジオラマ館に設置されたジオラマは全長27.6m、奥行7.5mとわが国最大級を誇る。またレストラン館はカフェ、シーフードダイニング、レストランの3店舗で構成、地元の旬の食材を使用した料理などを提供する。
敦賀駅からのアクセス面の拡充が課題
以降、市を代表する観光拠点の1つとの位置づけにあるが、新幹線開業後の今年のゴールデンウィーク(4月27日〜5月6日)には9762 人が来館、対前年比では40・7%増と、データのある福井県内の主要観光地・施設のなかでも最も高い伸び率を記録し注目を集めた。
ちなみに、これまでの年間来館者数は、コロナ前の14万9,800人、コロナ禍の20、21年は10万人を切ることになるが、22年以降は10万人を超える数にまで回復。ただし23年も10万3,835人とコロナ前には及んでいなかった。
こうしたなかで迎えた新幹線敦賀開業だが、前述のとおりGWだけで約1万人を集客したほか、4月単月だけでも来館者数は前年の6,524人に対して1万2,001人と84%増の大きな伸びをみせている。
<続きは本誌にて>