ある市場の「葬祭会館が充足しているか、不足しているか」、転じて「新規参入できる余地はあるのか、競争激化が著しいのか」などの判断材料として、ある程度の拠り所となるのが、1会館当たり死亡数だ。
対象となる市場の死亡数を会館数で除すると導かれ、これをもとに全国の1会館当たり死亡数を算出すると、139.2人(138万1,568人÷9,925か所)となった。死亡数は、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」2020年1月~12月の住民票削除数(死亡数)データを用いている(参考までに、21年の死亡数は人口動態統計によれば145万人余)。ここでいう139.2という数値は、全国の会館をすべて1式場の施設であると仮定すると、1年間で139件の葬儀を施行している(可能である)と見做すことができる。1会館当たり死亡数の全国平均と捉えてもよいだろう。
99年の会館数は約2,300か所で、この年の死亡数は約98万人であることから、1会館当たり死亡数は426人であった。この20年ほどの間に426人から139人へと大幅に低下し、会館葬の一般化とともに利用者の奪い合いが激しくなったのである。施行単価から事業者1社の売上高を類推・比較すると、00年の約6億1,700万円(144万9,000円×426件)が21年には約1億5,700万円(113万円×139件)へと著しく減少、葬祭業の経営環境がそれだけ厳しくなったことがうかがえよう。
都道府県別にみてみると、全国で最も1会館当たり死亡数が低いのは、栃木県と宮崎県の86.5人である。数字上、年間で1会館当たり100件の葬儀ができないという厳しい事業環境にあるということだ。次いで、佐賀県の88.6人、香川県90.4人、鹿児島県91.1人と続いている。
1会館当たり死亡数が100件を下回る県は全国で11県にのぼるなか、栃木県と香川県を除くと、九州と東北各県が占めているのが特徴だ。その背景や要因は一概にはいえないが、九州各県は早くからの会館先進県が多いこと、東北各県は一部を除いてエリア外から進出した互助会が勢力拡大を図ったこと、などの地域事情が関係しているといえる。東京都(310.9人)と沖縄県(260.0人)の2都県が突出して高いのは、寺院・寺院会館、民間火葬場の併設式場、区営の公共会館の存在が大きい(東京都)。歴史的に本土とは異なる葬送習慣が残り、もともと民間の葬祭会館が少ない、米軍基地があるため開発用地そのものの確保がむずかしい(沖縄県)、といった地域特有の事情に依る。
1会館当たり死亡数は、民間の葬祭事業者が運営する葬祭会館のみの数量から算出したものであり、より正確性を求めるには、各県の公共火葬場の併設式場や寺院・寺院会館の数量を計上しなければならないのはいうまでもない。さらにいえば、もっと実態に近い充足度・競合度を把握するには、都道府県より狭域である市区町村レベルでの1会館当たり死亡数を把握することである。編集部では、全国1,700を超える市区町村別の指標を算出し、北海道を皮切りに提示していく予定だ。