和田睦美[一般社団法人全国海洋散骨船協会事務局長/海洋散骨ディレクター講師]
【連載】
昨年度は、「知っておきたい『海洋散骨』のイロハ」と題した連載で、「海洋散骨について注意すべき点」や「海洋散骨ディレクターの心がけ」などについてお話させていただきました。そのなかで、読者からいくつか質問をお受けしましたので、今回の連載では「質問に対する見解」と「海洋散骨に参入する場合のポイント」などを中心にお話させて頂きたいと思います。
ご質問のなかに、「海洋散骨を行なうタイミングはいつなのか」というものがありました。確かに根本的な問題だと思いますが、私は「いつでもよい」と考えています。というのも、散骨を希望されるお客様はさまざまな事情を抱えておられるからです。したがって、お客様とお話を進めるなかで、そのタイミングを計っていくことが大切なのではないかと思います。
たとえば、「四十九日を迎えて納骨の代わりに行なう」ケースもあるでしょうし、「すでに家墓に埋葬されていた遺骨を散骨する」といったケースもあるはずです。とはいえ、実際に散骨が予定通りに行なえるかといえばそうではありません。四十九日を迎えたからといってすぐにできるかといえば、答えは“NO”です。なぜなら、海洋散骨は天候に大きく左右されるため、その影響を鑑みた判断が求められるからです。
つまり、お客様から海洋散骨についてご相談を受ける段階で、「この日に合わせて散骨しなければならない」「通常はこのタイミングで散骨するものです」といったお話はすべきではないと考えます。
また、海洋散骨を実際に行なう場面に数多く立ち会った経験から言わせていただくと、“暖かい季節”をお勧めしています。3月から、遅くとも11月くらいと考えるべきでしょう。もちろん、真冬は天候が安定しており、空気も澄んでいるため景色がきれいに見えることもあり、暖房の整った船であればそれでいいと思います。しかし、ご遺族が乗船される場合、ご遺族が快適なクルーズができたかどうかが海洋散骨に対する印象を決めてしまいます。温暖な気候のなかで快適な時間を過ごせれば、後々の思い出もよいものとなります。海洋散骨は、実はリピートビジネスです。ご遺族にとって今回の散骨の印象がよければ、次の機会も海洋散骨を選択肢のひとつとして考えていただけます。
次に、「海洋散骨ビジネスには誰でも参入できるのか」というご質問がありました。海洋散骨ビジネスに参入する場合、まずはフローを検討する必要があります。フローとしては①海洋散骨希望者を募集し、海洋散骨事業者に送客する、②自社で集客して船をチャーターし、自社で海洋散骨を主宰する、③自社で船舶を保有し、集客から海洋散骨、船舶の管理まですべてを自社で完結させる、などが考えられ、それぞれメリット・デメリットがあります。
①のように、海洋散骨事業者へ送客するだけのビジネスとして参入するのであれば、いずれかの散骨事業者と提携さえできれば、すぐにでもはじめることは可能です。一方、②、③のように自社で集客し、自社で海洋散骨を行なう場合には、やはりある程度のノウハウが必要となります。「契約書はどのようにすべきか」「費用や商品ラインナップはどうするか」「チャーターの場合にはどの運航会社と提携するか」「散骨海域の設定や散骨式の式次第をどうするか」「粉骨はどこで実施するのか」といったように、事前準備に相当の時間を費やす必要があるのです。
質問にあった「誰でも参入できるのか」という言葉には、資格や免許などの必要性も含まれているかと思われます。この点については、「散骨のみを行なうのであれば、特段資格は必要ない」ということになります。なぜなら、現段階で海洋散骨は法律上に明文化されていないからです。厚生労働省が発表した「散骨ガイドライン(散骨事業者向け)」によれば、お客様への事前説明は教育訓練を受けた従業員が行なうことが文書化されていますが、これは別の機会でご紹介いたします。
また、③のように船舶を自社で運航するには、船舶免許が必要です。しかし、散骨事業者委託したり、船舶をチャーターする場合は、当然ながら無免許という心配は無用です。
(中略)
近年、「海洋散骨を行なう人がふえている」といわれますが、これはあくまでも散骨を行なっている事業者の実感であって、明確な統計があるわけではないのです。実際海洋散骨で家族が参加する割合はどれくらいなのか、というご質問も受けますが、実感として、もしくは私が勤務している会社でのご遺族の乗船率は、以前と比べて大きくふえているとしかお答えできないのが実情です。
そもそも、海洋散骨は、近年になって知られるようになりましたが、10年ほど前には、「お墓が購入できないから(仕方なく)散骨する方」も多くいらっしゃいました。つまり、消去法によって海洋散骨に辿り着いた場合には、安く済ませるために自らは乗船せず、代行散骨を選ぶ方が多かったといえます。しかし近年は、海洋散骨が一般消費者に広く知られるようになり、自ら海洋散骨を選択される方やご遺族がふえた結果、ここ数年では、ご遺族が乗船し、自らの手で散骨をされる方がふえています。
ただし、このことは海洋散骨を実施している会社によって差があると思います。価格を重視するお客様は海洋散骨の安さを前面に打ち出すプロモーションを実施している会社に集まるでしょうし、海洋散骨で故人をしっかり見送りたいと考えるお客様は、価格よりも内容や信用を重視される傾向にあるからです。
海洋散骨ビジネスへの参入を検討する際には、自社がどのような形で参入するべきかを塾考すべきであるといえます。そのうえで、海洋散骨に投入できるリソース(人材、船舶等)との兼ね合いから、どのような事業形態で進めるべきかを決定すべきだと言えます。
「『海洋散骨』の実際――実務上のポイント解説」は、月刊フューネラルビジネスにて隔月連載中です。
2016年6月、全国海洋散骨船協会設立とともに事務局長に就任。19年、理事会の要請により、「海洋散骨ディレクター」テキストを編纂。20年1月には、第1回海洋散骨ディレクター講習にて講師となり、現在も継続中。
所在地:東京都渋谷区東3-25-10 T&Tビル
設立:2016年6月
理事長:志賀 司
加盟社数:正会員12社(2024年3月現在)