――ラストライフ[大阪市城東区]
近年、異業種へ参入する方法の1つとして、M&Aを利用する企業が増加している。事業承継問題における解決策となりうるだけでなく、新規事業の立上げと成長に要する時間やコストを大幅に削減できるからだ。成功すれば早期に資金回収や収益の見込みを立てることが可能となり、収益の安定化や本業とのシナジー効果を実現することができる。
葬祭業界においても、この動きは広がりつつある。今回は、大阪市城東区を本拠に葬祭事業を展開し、2017年にM&Aにより不動産事業者に譲渡した㈲ラストライフ(社長坂本英教氏)を訪ねた。
現在、代表取締役を務める坂本英教氏が本業とするのは不動産事業である。坂本社長は、父が手がけていた宅地建物取引業を引き継ぎ、07年に㈱キューブ(本社大阪府枚方市)を設立。分譲事業や不動産開発事業のほか、賃貸業などを中核事業として、主に枚方市に所有するマンションやビル、倉庫などの管理業務を行なってきた。
異業種への参入を考えはじめたのは、15年末頃のこと。奇しくも同年の国勢調査では、大阪府の人口が戦後はじめて減少に転じている。これを皮切りに、国内有数の大都市圏である大阪府においても、今日に至るまで断続的な人口減少が認められてきたことはいうまでもない。
不動産業界の消長は人口の増減に比例する。人口減少と少子高齢化に歯止めがかからないわが国では、今後、市場規模の縮小による不動産価格の下落や空き家率の上昇は避けられない。坂本社長も「不動産という『斜陽産業』だけに頼り続けることに対する危機感がありました」と語るとおり、日々肌で感じていた不安が、異業種参入への後押しとなった。
当初からM&Aという手法は念頭にあったものの、参入する業種を具体的に想定していたわけではなかったという。本業以外の知識がまったくないなかで、ホテル業や娯楽業など、成長産業を求めてさまざまな業種を検討していった。そんななか、知人から「葬儀社をやめようと考えている人がいる」とラストライフを紹介されたことが、大きなターニングポイントとなる。
当然、葬祭業界に対してもほとんど門外漢であったという坂本社長だったが、現場でラストライフ社員の働きぶりを見学し、考え方が一変。遺族のために誠心誠意を尽くす社員の姿に感銘を受けたことに加え、人口密集地ゆえに今後必ず死亡数の増加が見込まれる大阪市内に旗艦会館があること。さらに、本業であるキューブの所在する枚方市にも会館を展開していたことなどからほとんど即決で買収を決断し、紹介から約半年というスピードでM&Aが成立した。
買収にあたっては、前社長の意向で「社名と屋号(フローラルホール)は変更しない」ことが条件となっていたが、まったくの異業種からの参入である坂本社長はこれを快諾。もともと展開していた葬祭会館6か所のうち、4か所を買収する形で話がまとまった。こうして坂本社長自身も「まったく予想していなかった」と語る、葬祭業界への本格参入を果たしたのである。
(M&A後の取組みについては本誌で)
所在地 大阪市城東区中央1丁目12-6
設 立 2003年
代表者 坂本英教
会館数 5か所
施行件数 約800件(年間)