――持論・総論 葬儀のこれまで、これから①
井上治代氏 エンディングデザイン研究所 代表
私たちはいま、善し悪しは別として、伝統が音を立てて崩れ、激変する社会を見届けている。この先どのような社会が顔を出すのかを含めて、この連載では、1990年代から2040年を視野に、いくつかの顕著になった現象の背景を探ってみたい。
その際、社会変動に伴う「葬儀の構造」の変化といったことにも着目する。
戦後日本の葬儀や墓は、「家」システムが色濃く残るものであったが、1990年代を皮切りに脱「家」現象が起こり、2000年を過ぎると、「家族葬」が主流となった。「地縁」が弱体化した社会では、「義理の関係者」で肥大化する伝統的な儀礼に意味を感じなくなり、家族・親族で行なう「密葬」とその後の「お別れ会」などがクローズアップされるようになる。実はその動きが、家族・親族だけで行なう「家族葬」に繋がっていく。
「家族葬」が主流になる現象を紐解く前に、「葬儀の構成メンバー」について整理しておきたい(図表)。
まずそれは、祀られる側の「死者」と祀る側の「生者」に分かれる。「死者」では、「遺体」という肉体と「魂」があり、遺体の処理だけで済ませるのが「直葬」、魂の処理をするのが宗教葬で、魂の処理をしない葬儀が「無宗教葬」となる。一方、祀る側の「生者」は、「家族・親族」といった二人称と、「親族以外の関係者」という三人称の人々である(宗教者と葬儀社スタッフを除く)。二人称の「家族・親族」だけで行なう葬儀式が「家族葬」で、三人称の義理の関係者が参加する「告別式」を行なわない形式である。
本稿ではこの葬儀の構成メンバーの変化に注目し、どのような葬儀形態が展開されたかについて話を進めていく。
(続きは本誌で)