――LGBTQフレンドリーな葬送を目指すプロジェクト[大阪市北区]
東京都渋谷区と世田谷区において、国内ではじめて「パートナーシップ制度」が導入されてから8年が経った。性的少数者の総称として用いられる「LGBT」という言葉は、性の多様性を尊重する見方の浸透とともに、いまや人々に広くその意味を知られるようになっている。
しかし近年では、すべてのセクシュアリティに対する配慮を示すため、「LGBTQ」と表記することが一般的となった。
性の多様性を尊重し、受け入れようとする機運が高まるなか、葬祭業界をはじめとする供養業界全体に対してLGBTQの理解を求め、「LGBTQフレンドリーな葬送の実現に向けたプロジェクト」の発起人として日々活動に奔走する石原千晶氏に話を聞いた。
プロジェクトの発起人は、「供養のカタチ」のブランド名で墓石や霊園の選択など、供養に関する訪問特化型の相談サービスを展開する石原千晶氏。
21年、石原氏自らが中心となり、LGBTQ支援団体や弁護士、僧侶らの協力を得て「LGBTQフレンドリーな葬送を目指すプロジェクト」を始動した。業界内での理解促進を図るだけでなく、顧客やその家族が性的少数者であっても希望する葬送を行なえるよう、LGBTQ当事者と葬祭事業者のための葬儀と墓に関するガイドラインを盛り込んだ「LGBTQフレンドリーな葬送ガイドブック」の作成したのである。
ガイドブックは、「当事者用」と「事業者用」の2種類。
前者には祭祀主宰者の指定や任意後見契約の締結など、当事者が自身の尊厳を守るために法で備えられる事柄を解説し、死後に望む取決めを公正証書で生前に用意しておくことを提案。後者には、LGBTQに関する基礎知識をはじめ、顧客や従業員に性的少数者がいるかもしれないことを念頭に置いた適切な配慮・対応の方法を明示するなど、当事者と事業者、それぞれに対して最低限知っておくべき知識を得られる内容とした。
なお、ガイドブックはいずれも1部1,000円(税別・送料別途200円)で、LGBTQ当事者には無料で配布している。申込み・問合せは「供養のカタチ」問合せフォームから。
性的少数者カップルは、何年一緒に生活していても法的には他人にすぎないが、「祭祀の主宰は親族に限る」といった法律は存在しない。パートナーであれ友人であれ、親族以外に祭祀の主宰を託すこと自体は可能である。
しかし、ガイドブックに示された祭祀主宰者指定などの手立てをあらかじめ講じなければ、本人の望まない葬送も起こり得てしまうのだ。近年ではパートナーシップ協定の導入をはじめとして自治体の支援の輪が広がっているが、これらは一部のサービス提供にとどまっており、終活の場面にまで行き届いていないのが現状である。
当事者からすれば、性的少数者への配慮を示す「レインボーマーク」を自社ホームページに掲載しておくだけでも、その事業者を利用するハードルが大きく下がるという。石原氏は、「10人に1人という割合は、左利きの人や、日本の六大苗字である佐藤、鈴木、高橋、田中、渡辺、伊藤のすべてを合わせた数よりも多いといわれています。皆様の近くにも必ずいらっしゃるはずです。今後、業界全体が当たり前にALLYとなっていくよう、小さなことからでも行動を起こしてほしい。そのきっかけとしてガイドブックを使ってもらえたら」と期待をにじませた。
(ガイドブックについてのさらなる詳細は本誌で)
所在地 大阪市北区梅田1丁目11-4-9-923
大阪駅前第4ビル9階(「供養のカタチ」内)
設立 2021年
代表者 石原千晶