昨今、Web3.0時代(次世代の分散型インターネット)に突入し、携帯電話やタブレット等の普及・拡大とともに、手軽に情報発信できるSNSツールが隆盛を極めている。もはや、SNSは日常生活において欠かせない存在となったといえるだろう。そうしたなかで、各ツールを複合的に運用し、その影響力をもって宣伝・広告として利用する動きが広がりをみせている。時代に敏感な葬祭事業者もこの流れに乗り、SNSツールを利用して自社PRや人材確保などに動き出す事例がふえてきた。
本特集では、SNSツールを活用する5社を取材。活用法や効果について、その可能性を探った。
Web3.0時代を迎えモバイル向けの情報発信へシフト
今年7月2日、午前1時35分から通信大手KDDIのau携帯電話などで大規模な通信障害が発生した。同月4日の午後3時36分に音声通話およびデータ通信の利用に問題ないことが確認されたと発表があったが、この間、最大で3,915万回線に影響があったという。葬祭業界においても、au携帯電話を社用電話として契約している事業者もあろうが、通信・連絡手段が途絶えるという“事の大きさ”をあらためて痛感した出来事であった。
逆にいえば、それだけ(オン・オフ問わず)日常生活に密着した生活インフラとして普及・拡大を遂げたことの表われでもある。参考までに、総務省「令和2年版 情報通信白書」によれば、2019年度末における固定電話の加入契約数の1,846万件に対して携帯電話等の移動通信契約数は1億8,661万件。実に固定電話契約数の約10.1倍にまで達している(ちなみに、20年の国勢調査時点・10月1日現在の日本の総人口は1億2,614万6,000人)。もはや携帯電話はウェアラブルアイテムとして欠かせない存在でしかない。
これだけ普及した背景には、その利便性の高さが万人に受け入れられたからにほかならない。会話のみならず、さまざまな情報にアクセスできる容易性、位置情報などを確認する安全・安心の担保、果ては、ショッピングや電車移動も携帯端末1つあれば済んでしまうという利点が、普及率を押し上げた要因だ。
加えて、このコロナ禍で消費者の生活様式がガラリと変わり、情報を得るツールが多岐にわたっている。そのため、消費者に対する販売促進のウエイトも大きく様変わりしている。
それは、大手広告代理店・電通が公表している「日本の広告費」をみれば明らかで、11~21年における日本の総広告費は19年まで右肩上がりで推移していたものの、20年には6兆1,594億円まで減少。一転して、21年には6兆7,998億円と対前年比110.4%まで回復したとされている。だが、注目すべきは回復基調にあるということではなく、どのような媒体を活用して広告宣伝を行なっていたのかにある。
図表1は直近3年間の媒体別推移をみたものだが、これまで継続的に最も高いシェアを誇ってきたマスコミ4媒体広告費の2兆4,538億円(前年比108.9%)に対し、インターネット広告費は2兆7,052億円(同121.4%)と、はじめてそれを上回った。加えて、「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」が1,000億円を突破するなど、同項目として推定された18年からわずか3年で1,000億円超を達成している(図表2)。以上のことからもわかるように、ウェアラブルアイテムとして定着をみせた端末に向けた情報発信は、個人・法人を問わず、何らかの形で日常的に関わり合うものを対象とするようになったのである。その後押しをしたのが、SNSの存在だろう。
SNS利用率を睨んだ展開を視野に
SNSとは、Social Networking Service=社会的なネットワークを築くためのサービスの略で、代表的なサービスとしては、Facebook、Twitter、YouTube、Instagram、LINEといったものがあげられる。それ以前のサービスであれば、当時のプロバイダー各社が提供していた掲示板やブログサービス、さらにはmixi、20年の提供開始時に話題をさらった音声版TwitterともいわれるClubhouseなどがある。だが、現在を代表するSNSといえば、やはりFacebookからLINEという5大ツールといっても過言ではない。
それは、総務省情報通信政策研究所が行なった「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」をみても明らかだ(図表3)。これによると、全年代で高い利用率を誇るのはLINE、次いでYouTube、TwitterとInstagramが同率で3位、5位がFacebookとなっている。また、年代別でその利用率をみると、20歳代のLINE利用率が97.7%、YouTubeが97.2%、Twitterが79.8%と圧倒的に高く、10歳代をみるとInstagramが69.0%となっている(Facebookは30歳代の48.0%)。この数値を読み取った一般企業は、すでに5大ツールによる情報発信を積極的に行なっているのが実情である。
翻って、葬祭業界はこうしたSNSツールと無縁のままでいいのだろうか。
そこで本特集では、SNSツールを活用する5社に取材、その活用策について伺った。そのなかで共通しているのは、各社とも各ツールの特性に応じた情報発信を行なっていること。単なる販促ツールとして活用するのではなく、自社社員のスキルアップやリクルート活動の一環として活用しているケースもある。とはいえ、まだまだこうしたツールを自社PRに利用することに躊躇する事業者もあるだろう。
だが、いま一度図表3にある各年代別の利用率に着目してほしい。現状の経営者がSNSツール活用について懐疑的であったとしても、今後、喪主になる世代の利用率がすこぶる高いことに着目すれば、将来的な喪主世代に、何らかの形でアプローチする策を講じていく必要があると気づかないだろうか。
取材を進めるなかで、ある葬祭事業者は、「SNS活用は、10年後、20年後を見据えたなかでトライするものであり、即効性を求めるものではないと思います。とはいえ、いまからはじめておかないと、各種ツールの仕様についていくことができなくなる。“もはや手遅れ”となる前に、チャレンジしておくことも大切なのではないでしょうか」と語っていたことが印象的だった。とすれば、SNSツールを活用するか否かの判断基準は、今後の喪主世代が容易にアクセスするツールに対して、運用開始が早いか遅いかの違いでしかなく、後手を踏めば踏むほど、その進化に対応できない事業者になってしまう可能性があるということだ。
言い換えれば、SNSは即効性のある販促ツールではなく、将来的な事業存続・発展を見据えて着手しておくことが大切といえるだろう。
(ケーススタディは本誌で)