デベロッパーの落ち度により建物を使用収益させることができなくなったのであれば賃料支払債務も消滅するのが当然であるが、デベロッパーの落ち度によらずに建物を使用収益させることができなくなった場合、たとえば、台風により施設の周辺が停電してしまったような場合は、デベロッパーに責任はないし、またテナントは相変わらず什器備品を建物内に置いているので、デベロッパーとしては賃料を請求したいと考えるのが自然な心理である。
他方、テナントとしては、デベロッパーに落ち度はないとはいえ、建物で営業できなくなったのであるから、賃料は支払いたくないと考えるのもこれまた自然な心情である。これは、デベロッパーとテナントのどちらが悪いわけでもなく建物を使用収益することができなくなった場合に、賃料支払債務は消滅するのかそれとも依然として残るのかという問題であり、いわば天から降ってきた「危険」をデベロッパーとテナントのどちらが負担するのかという問題であるため、「危険負担」と呼ばれている。
かかる危険負担の問題に関する民法の規定として、民法「第611 条第1項」と「第536 条第1項」とがある。
この二つの規定は、適用される条件に違いがある。具体的には、第611 条第1項は使用収益させる債務が「一部」履行不能である場合に適用されるのに対し、第536 条第1項は「全部」履行不能である場合に適用される。しかし、いずれの規定も危険はデベロッパーが負担すべき(賃料支払債務は消滅する)との考え方をとっている点は同じである。これは、建物を使用収益させることが履行不能となっているのであれば、賃料債務も消滅すると考えるのがやはり当事者の公平に資すると考えられているからである。したがって、重要なのはどちらの規定が適用されるのかではなく、建物を使用収益させることが履行不能となっているかどうかである(履行不能となっているならどちらかの規定が適用される)。
そこで、以下、民法第611 条第1項と第536 条第1項の適用条件について説明した後、履行不能が認められるための判断基準について解説する。