PROSPER
INTERVIEW|地方投資のポテンシャル
PROSPERは楽天野球団の社長を歴任した立花陽三氏が率いる投資運用会社だ。
2023年5月、事業の承継や再編を要する地域中小企業に投資し、成長を支援するプライベート・エクイティ(PE)ファンド「PROSPER日本企業成長支援ファンド」を組成。これまでに5件(2024年11月現在) の投資実績を重ねている。代表の立花氏に地方・地域の魅力と、投資ポテンシャルについてうかがった。
PROSPERは日本全国の地域事業者に投資するファンド運用会社。事業の目的は地場の中小企業者やその周辺企業への投資を通じた地域経済の活性化だ。ファンドのコンセプトは「全員がワクワクする熱いファンド」。投資のターゲットとなるのは観光、スポーツ、地場産業である。代表の立花陽三氏は、楽天野球団の社長在任中に収益を大幅に伸ばし、東北地方の振興に大きく寄与した人物だ。
観光、スポーツ、地場産業に投資するファンド事業者として“ 地域” にフォーカスしている理由について立花氏は、「およそ10年間、東北仙台に移住し生活してきて痛感したのは、地域にはその場に行かないとわからない、まだ知られていない魅力的な観光資源や素晴らしい特産品など、コンテンツが数多くあること。これらを元気にして“ 表” に出し、輝かせていきたい。そのためには単に資金を投資するのではなく、地域の企業や地元の金融機関、産業、人が互いに連携することが大切だと考えた。会社を投資ファンドの形態としたのは広く投資家資金を募り、多様な専門的ノウハウが集まる事業形態であるからだ。投資運用には私が先頭に立ち、各地の活性化を支援するべく、ハンズオンで投資していく」と語る。
PROSPERは立花氏とともに、取締役として佐藤公春氏、江副翠氏が体制を固める。佐藤氏は北海道や栃木、福井、香川など地方での投資案件にも多数関与した実績をもつ。江副氏も楽天野球団で地域密着事業に従事した。各氏には“ 地域を元気にする業務” を経験したという共通点がある。
「人口急減・超高齢化という東京の視点でみたマクロな課題と、事業承継や再編策という地域産業が直面するリアルな課題には、地域にいないと分からないギャップがあると感じる。双方の視点から地域活性化に実績をもつ当社が投資を行うことで、投資企業の個別課題に即した支援が可能。投資企業を軸として、周辺の企業や施設、ひいては地域全体を活性化させたい」(佐藤氏、江副氏)。
具体的にファンド事業の中身をみていこう。運用規模は176億円で、投資対象となるのは、宿泊事業や飲食事業などを展開する全国の中小事業者だ。エリアは特定しておらず、あくまでも現地で自発的な産業活性化の機運が発生していることがポイントとなる。投資先としての宿泊施設の施設規模は、各地域でのボリュームゾーンでもある客室数50室前後が目安。
投資実行後の運用では、ホテル・ブライダル・レストラン等を運営するPlan・Do・See(PDS)と協業、実際に人員を派遣して事業承継や再生を支援。投資企業を軸とした地域全体の産業活性化を図る。出資者には三井住友信託銀行やゆうちょ銀行のほか、全国の地方銀行9行や事業会社等が名を連ねている。
「宿泊、食、スポーツなど地域の良質なコンテンツは、正しい発信方法で“ 表” に出すことが何より重要になる。たとえば、ある温泉地で硫黄泉の影響によりエアコンなどの設備がよく故障することがある場合、それを逆手にとって“ 高級腕時計なんて付けてこないように” と打ち出すと途端に面白くなる。一見短所のようでも、発想の転換で付加価値に変えることもできる」(立花氏)。
ホテル・旅館を運営する宿泊事業者には、既に3件の投資が実行されている(ほか飲食事業者に1件、農業事業者に1件投資)。資産は「ゆとりろ熱海」(24年3月取得、静岡県熱海市)、「大洗パークホテル」(24年8月取得、茨城県大洗町)、「雲仙九州ホテル」(24年10月取得、長崎県雲仙市)だ。3物件の所在地はすべて人口5万人以下で、1件あたりの投資規模は5~20億円。
「地域や建物等に歴史などの潜在的かつ唯一無二の魅力があれば、エリアや経済規模に拘らず事業性を担保できるか検討したい。というのも、既に地場で事業を行っている企業へ投資を実行するからだ。あくまでも現地に企業の経営基盤がある、もしくはあったということが前提で、これを磨いていくことが当社の仕事と捉えている。弊社やPDSが持つノウハウを活用したい」(江副氏)。
投資実行後は、建物のリノベーションや客室増などハード(不動産)の価値向上は当然ながら、ソフト(人材)のテコ入れに注力する。具体的には、従業員など働き手の待遇改善だ。
「消費者にとって、ホテルの価値評価は立地、内装などの不動産的要素だけでなく、ホスピタリティの質によっても多分に左右される。若手人材の育成だけでなく給与体系や勤務体制などを見直し、働き手を定着させることが集客以前に何よりも先決」(佐藤氏)。
労働集約型産業であるホテル業界において、地方では働き手の確保も深刻な課題となる。外国人人材の取込みも図るとしているが、注目するのは国内のUターン人材だ。
「例えば、過去の実績でも、球団やPDSの取組みを知って“ 地元で面白いことをやっている企業があるから戻ろう” とUターンしてくれた人がいた。こういった現象は地元の人を多く巻き込んだ形で活性化を図る当社のスタンスとも親和性が高く、今後も積極的に活動を周知して有用な人材を呼び込みたい」(江副氏)。
ファンドの運用期間は10年。出口戦略はトレードセールのほか、複数案件をポートフォリオでREITなどに売却する方針だ。小口証券化し、地元住民に販売するアイデアもある。「REIT事業者にも地方の投資案件を模索する動きはあるようだ。一方で地方の中小事業者のほとんどは事業承継や再生、財務状況に課題を抱えている。当社がファンドを通して企業のキャッシュフローを安定させることで、将来的にREIT資産にまで仕立て上げられれば」(佐藤氏)。
地方に特化したREITやご当地ファンドは参入事業者が極端に少ない。ファンドそのものの仕組みや投資家・レンダーのリスクリターンの考え方など、地元投資家や地銀への説明に大変な手間と時間がかかるうえ、見合ったリターンを確保できないからだ。
「とはいえ、資金調達や人的支援などを求める中小事業者からのニーズは非常に根強い。実際ファンドを立ち上げてからは支援を求める声が多方面から届いている。今後も地方自治体や地銀とのリレーションから、隠れた優良資産を発掘していく。いずれ2号ファンド以降の組成も検討したい」(立花氏)。