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平井大吾氏 [ブラックロック・ジャパン]に聞く

利上げでも姿勢は“変えず”
コンテンツで収益増強追求

グローバルファンドがみる日本市場

グローバルでの総運用資産残高約1,700兆円を誇る世界有数の資産運用会社、米ブラックロック。
インフレと利上げが進む日本において、不動産市場をどう捉え、どう動いていくのか。
日本法人で不動産を統括する平井大吾氏に話を聞いた。

常に新顔が現れる日本市場
高い流動性がポジティブ要素

 今年に入り相次ぐ日銀の利上げについては、「ようやくその時期が来たか」という心構えで臨んでいる。利上げは昨年以前から予想されていたことであり、当社はそれを理由に投資スタンスを様子見に転じることなく、引き続き案件発掘に努めていくつもりである。
 当社が考える日本の不動産市場の魅力はいくつかあるが、ここでは流動性の高さを挙げたい。
 それはどういうことかと言えば、常に新しい買い手が現れることだ。国内からは私募REIT立ち上げを目論む一般事業会社、外資からはアジア系のファミリーオフィスなどが目立って市場に参入してきている。
 またレンダーの融資姿勢は今のところ変化していないように感じる。今後も金利上昇が予測されているものの、それでもなお日本は各国との比較でポジティブイールドを提供できる魅力的な投資先であり続けるだろう。

賃貸住宅の収益向上余地に期待
コンセプト型、SA、コリビング

 日本の不動産市場は利上げもそうだが、インフレの影響で新たなステージに突入した。
 このステージではインフレに強い、つまり期中の賃料収入を継続的に上昇させられるアセットタイプが有望な投資対象となる。もちろんコストカットの重要性は否定しないが、固定資産税や保険料など減らせないコストが多く、やれることには限界がある。
 そのなかで注目するアセットタイプのひとつが賃貸住宅だ。大都市圏では世帯数の増加が継続しているほか、分譲価格が高騰しており、結果として賃貸住宅への需要が高まっている。間取りでは1LDKや2LDKといった広めの部屋の賃料の伸びが著しい。
 需要面の優位性に加え、コンテンツ付与を通じたキャッシュフロー向上の可能性も賃貸住宅に注目する理由である。
 現在はある協業先デベロッパーと屋上にドッグラン付きの物件に投資するプロジェクトを進めているところ。それ以外にも防音などのコンセプトも考えている。先述した世帯数増加や人々のライフスタイル多様化で、従来なかった個性的で高付加価値な物件に投資する余地が生まれているのだ。
 サービスアパートメント(SA)やコリビングなど、ホテルやオフィスの要素を取入れた賃貸住宅にも関心がある。現在は海外のSAオペレーターと連携し、新たな投資に取組んでいる。こちらは海外からの長期滞在旅行者の取込みも目論んでいる。

ホテルはリポジション案件に注力
変動賃料への移行前提に

 ホテルも当然ながら注目の投資対象である。
 上昇著しいADRの恩恵を享受するためにも、オペレーターとの契約形態は一部変動賃料のリースまたはマネジメント・コントラクト(MC)の方がベターであることは確かだ。たとえ完全固定賃料のリースを採用する物件だとしても、建物設備の改修費用をファンドで負担する代わりに一部変動賃料を導入できるなら、前向きに投資を検討できる。
 またホテルのブランドを変えることでアップサイドを狙える案件を積極的に探している。とくに外資系オペレーターは、豊富なレベニューマネジメントの経験値とメンバーシッププログラムを通じた多くの顧客基盤が魅力的である。一方で日系オペレーターも、以前のような稼働率のみにフォーカスしたスタイルからADR向上を目指すスタイルに変化しつつある。
 ヘルスケア施設は高齢化に伴う需要増大こそあるものの、固定賃料の長期リースを基本としているため、インフレ局面では投資を積極化しづらい。賃料の数年おきの改定やCPI連動など、契約条件の作り込みが求められる。
 ちなみに当社は豪州でチャイルドケア施設に投資しているが、ヘルスケア施設への投資はインフラ投資に近い側面がありそうだ。

ESGは金融環境に左右されず

 ESGへのスタンスについても触れておく。ESGの取組みが、短期的な収益にプラスの影響を与えにくい(マイナスにもなりうる)ため、利上げに伴う収益圧迫で縮小されるというのは、筋が通らない話ではない。
 しかしながらESGは金融環境に左右されない長期的な潮流であり、その浸透がペースダウンするとは思わない。グローバル(とくに欧州)の投資家は引き続きESGの取組みを注視しているほか、大手企業限定だがテナントもオフィス選定時に環境認証付きのビルかどうかを注視するようになってきた。
 当社も物件取得を検討する際に、その物件が認証を取得済か今後取得できそうかをチェックポイントのひとつとしている。またレンダーが提供するグリーンローンを活用し、ESGに対する姿勢のアピールも行っている。

AM・PMは発想力と挑戦心を

 最後に当社がパートナーシップを組みたい相手のイメージ像をお伝えしたい。
 日本ではいまだに物件取得競争が激しいなか、オフマーケットでの取得機会獲得につながるデベロッパーや一般事業会社との協業は前向きに検討していく。彼らに対しても棚卸資産やノンコア資産の売り先確保というメリットを与えられるはずだ。
 そして物件運用の要となるAMやPMには、賃貸住宅の話で触れたようなコンテンツを活かした付加価値創出に関する、発想力とチャレンジ精神を求めたいと考えている。


平井大吾氏
マネージング ディレクター プライベート・マーケット本部 リアルエステート部
2022 年8 月から現職。以前は米系投資ファンド、米系投資銀行に勤務。投資先企業の再生およびIPO の経験も有する。慶應大学経済学部卒、ロータリー財団の国際親善奨学生としてVanderbilt University Owen Graduate School (M.B.A) を取得

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