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JFEホールディングス

製鉄所跡地を舞台に脱炭素のまちづくり

【鉄鋼メーカー】

約400haにおよぶ土地活用
グループの新たな収益の柱に

 JFEスチールなどを傘下におくJFEホールディングス(以下、JFEHD)は、川崎市川崎区にあるJFEスチール東日本製鉄所京浜地区(以下、京浜地区)の土地利用転換に着手する。横浜・みなとみらいの2倍以上にあたる約400haもの土地を有効活用しようとする大規模なプロジェクトだ。
 土地利用転換のきっかけは、JFEスチールが2020年に発表した鉄鋼生産体制の構造改革で京浜地区の上工程休止を決めたこと(23年9月に高炉などの設備を休止)。JFEHDは21年に川崎市と土地利用に関する協定を締結。京浜地区に点在する地区ごとに土地売却、土地賃貸、事業利用のいずれかを実施していく。24年5月7日に開かれたJFEグループのインベスターズ・ミーティングでは、京浜地区の土地活用を鉄鋼、エンジニアリング、商社に続く4本目の収益の柱とする方針を掲げた。
「カーボンニュートラル関連の新たな事業とともに、羽田空港や都心に近い立地を活かし新たなまちを創造する」と話すのは、専務執行役員( 京浜臨海土地活用検討班担当) の岩山眞士氏。この京浜臨海土地活用検討班は、「ハーバーシティ蘇我」(千葉市中央区)や「HAT神戸」(神戸市中央区)など、過去の製鉄所跡地活用プロジェクトに携わったメンバーで構成されている。

京浜地区や主要交通拠点の位置関係
京浜地区や主要交通拠点の位置関係

京浜地区や主要交通拠点の位置関係。「扇島」ICが開業した場合の所要時間は、羽田空港西貨物地区まで11分、東京・大手町まで30分

ヒューリックと研究開発拠点づくり
市内他拠点との連携も視野に

 各地区のうち、扇町地区(約21ha)については2024年12月下旬付でニトリに売却し、450億円程度の譲渡益を得る見込み。同社は延床面積約41万㎡の自社用物流施設を開発するとしている(27年度竣工予定)。

 南渡田北地区北側(約5.7ha)については、ヒューリックを事業パートナーに選定のうえ、素材関連の研究開発機能を中心としたまちづくりを進める。JFEスチールが既存建物撤去や道路整備を実施したうえで、ヒューリックに土地を引き渡す。2027年度のまちびらきを予定しており、土地利用転換の第1弾となる。
 南渡田南地区についても研究開発を中心とした機能を盛込む方針。「キングスカイフロント」や「新川崎・創造のもり」といった川崎市内の研究開発拠点との連携も視野に入れる。「両拠点で育ったスタートアップを南地区で受け入れ、さらに成長したら北地区で受け入れるような流れを作り出したい。南地区は近隣に住宅がないため、市街地では取組みにくい実験を行う施設も受け入れ可能」(岩山氏)。

南渡田北地区北側のまちづくりイメージ(変更の可能性あり)

南渡田北地区北側のまちづくりイメージ(変更の可能性あり)。川崎市は2022年に「南渡田地区拠点整備基本計画」を策定。ちなみに南渡田はJFEスチールの前身である日本鋼管発祥の地

カーボンニュートラルな一体開発
液化水素の活用が差別化要素に

 今回の土地利用転換で最大の目玉が、扇島地区(222ha)でのプロジェクト「OHGISHIMA 2050」である。
 ゾーニングでは大きく「先導エリア」「沿道エリア」「共創エリア」の3つを設定する。2028年度に先導エリアの一部から土地利用を開始し、50年の概成を目指す。

「OHGISHIMA 2050」イメージ

「OHGISHIMA 2050」イメージ。「カーボンニュートラル都市」「イノベーション都市」「レジリエンス都市」の3点をコンセプトに、公共・公益性を強く意識した土地利用を進めていく

 先導エリアは水素等脱炭素燃料の貯蔵・供給拠点を設ける「カーボンニュートラルエネルギーゾーン」、公共利用可能な港湾施設を設ける「港湾物流ゾーン」、最先端物流施設を誘致する「高度物流ゾーン」で構成する。エリアには国内最大級の大水深バースがあり、水素運搬船など大型船舶が停泊できることを活かす。「扇島にはLNGを燃料とする自社の火力発電所があるが、燃料を水素に切り替えれば地区全体のカーボンニュートラルを目指せる」(岩山氏)。
 高度物流ゾーンの最先端物流施設に関しては、自動運転トラックや後続車無人隊列走行に対応すべく首都高湾岸線「扇島」IC(新設予定)との直結化、ドローン配送を含めた全自動化などを構想中。また沿道エリアには同じく物流施設のほかデータセンターの誘致を計画している。「-253℃にもなる液化水素のタンクからの冷熱を、データセンターや冷凍冷蔵倉庫の冷却で活用するのも面白い」(同氏)。

 共創エリアは「シェア型都市空間・モビリティハブ」「次世代産業・複合開発ゾーン」で構成。シェア型都市空間は自動運転車や空飛ぶクルマなど次世代モビリティが行き交う緑化空間とし、モビリティハブは従来交通から次世代モビリティへの乗り換え機能を果たす。
 次世代産業・複合開発ゾーンは研究開発施設やコンベンション施設、オフィス、商業施設、ホテルなどの設置を想定する。カーボンニュートラルの観点ではZEBの採用のほか、先述した液化水素タンクの冷熱や発電所の温熱を用いた冷暖房の供給も考えられる。

不動産/金融業界の力も必要に

 OHGISHIMA 2050をはじめとする京浜地区の土地利用転換は、長期間かつ広範囲におよぶ巨大プロジェクトだ。そのためJFEHDは、不動産/金融業界との協業に前向きな姿勢を示す。「既存の設備をすべて撤去してから開発するので、デベロッパーにとっては従来取組めなかったダイナミックな試みにチャレンジする機会となるはず」と岩山氏。
 プロジェクトの事業費も莫大であり、既存設備解体からインフラ整備、施設開発まで含めると先導エリアだけで4,700億円、扇町地区全体では2兆600億円におよぶとの試算だ。川崎市などからの公的補助はもちろんのこと、民間資金の活用も進めていく。そのなかでは不動産ファンドの出番もあるかもしれない。
 同氏は最後に「ほぼ全域が臨港地区に指定されていることによる土地利用規制の変更、扇島に現在皆無の公道の整備など課題は多いが、それを乗り越え未来のまちづくり像を示していけたら」と語っている。

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