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――伊藤幸彦氏[GOYOH]
  川村麻紀氏[ベーカー&マッケンジー法律事務所]
  川井賢武氏[LONGEVITY PARTNERS]

ESGスコア向上に効く
運営データの「開示」と「計測」

特別座談会

ESG戦略をめぐる議論は、開発・供給から運用・運営の段階に進みはじめた。
不動産から排出されるCO2 はそのほとんどが運営から生み出されており、その低減と抑制にはテナント・利用者・地域との連携、協力関係の構築が不可欠である。
「E」の評価を高める基礎となる「S」の領域、グリーンリースを議論する。

特別座談会
特別座談会

グリーンリースが徐々に浸透
実効性は未知数

伊藤 不動産ESG戦略における「S(社会)」の領域に関して、「グリーンリースの活用の有用性と課題」をテーマに、投資家、投資運用会社、テナントそれぞれの側面から議論を深めたいと思います。はじめに国内ESG投資の現状を、それぞれの立場から教えてください。
川井 ファンドやREITなどの不動産オーナーに向けてESG対策やコンサルティング、各種認証取得を支援しています。
 グリーンリースに関連してオーナーの現状をお話しすると、専有部床の電力消費量の開示要請や、省エネ設備導入への協力願いなど、賃貸借契約書にグリーンリース条項を組込むケースが増えてきています。これらに対してテナント側もおおむね理解を示しています。しかしながら、実際の運用段階においては“ お願い” にとどまっており、実際に開示や協力がどこまで進むかは未知数です。
川村 テナント企業サイドに対し、主にオフィスやリテールの賃貸借契約のアドバイスを提供しています。顧客は、新たに日本に進出する先を含め、外資系企業が多くを占めています。
 現状をお話しすると、外資系テナント企業の多くは入居先のビルがグリーン認証を取得していることを前提条件としており、そうした入居先のオーナー側も賃貸借契約条件にグリーンリース関連の協力やデータ開示に関する規定を徐々に盛り込むようになってきました。もっとも、川井さんのご指摘の通り、多くは規定が守れなかった場合の罰則までは設けていません。その一方で、莫大なCO2 を排出するデータセンターが当事者となる場合では、「お願い」というより「義務」に近い言い回しとなっているケースもみられます。つまり、賃貸借の用途によって“ 差” があるというのが現状の認識です。
川井 日本でグリーンリースは黎明期で、賃貸借契約書内で取決内容に温度差が生じています。しかしながら、欧州諸国がたどってきた流れをみれば、この先日本において対策が求められることは間違いないでしょう。
 たとえば、英国ではテナントのエネルギーデータ情報開示は大前提で、テナント側にもCO2削減目標を設定してもらうケースが珍しくありません。また、テナント側の関心も高く、オーナーに省エネ・環境対策を逆提案し、契約書に盛り込むよう要請するケースもあります。

データ開示に関する
利害関係者との合意形成

伊藤 データ開示にかかる、テナントの協力要請、関係性の構築について議論したいと思います。 テナントが消費した水や電力などエネルギーデータは、ビルのESG施策の効果を測るうえで不可欠ですが、その取得はテナント側の同意なしには進みません。オフィスでは、テナントの水道光熱費を投資家/オーナー側が建て替え払いすることで、データをトラッキングするケースがあるものの、住宅では極めて稀です。また、商業施設や物流倉庫、データセンターなどの一棟貸し建物で、テナントの同意を得られなかった場合、トラッキングはほぼ不可能となるリスクがあります。
川村 対処方法として、オフィスビルの場合はオーナーが光熱費を建て替え払いするケースは多いですね。分割フロアの場合は少し複雑となり、フロアごとに計測したデータを面積で按分するケース、ユニット単位で小メーターを設置して計測するやり方もあります。
 課題について付け加えますと、エネルギーデータの取得だけでなく、取得したデータをグリーンリースのフォーマットにのせることもむずかしさを伴います。正味のエネルギー使用金額に一定のフィーを乗せてテナントへ請求しているケースなどもあり、契約内容と商慣習の交通整理が不可欠となるためです。導入費用についてもハードルがあります。大手ビルオーナーやファンド・REITはまだしも、中小ビルオーナーにとっては抵抗があると思います。
川井 欧米ではメーターをユニット単位で、より多く・細かく設置することが望ましいとされており、その対応が進んでいます。テナントの電力消費量だけでなく、電力消費の大きい設備の特定・分析が効率的な管理につながるためです。なお、賃貸住宅のエネルギーデータ取得に際して、個人情報保護という課題はたしかにあります。しかし、住所や電話番号、マイナンバーカードの番号と異なり、匿名化、一般化するなどのデータ加工によって、テナントの協力は得られる方法もあると考えています。

 

(特別座談会の全貌は本誌で)

登壇者

伊藤幸彦氏 GOYOH 代表取締役
2006 年に23 歳でニューヨークにて不動産投資・ 運営会社を起業。2008年にアスタリスクを創業、グローバルな機関投資家、投資ファンド、超富裕層などが求める、不動産のソフト価値を最大化するソリューションを提供する。2018 年、不動産テック事業に特化したスタートアップGOYOH を創業。グローバル投資家の視点からのESG による不動産のソフト価値と社会的インパクトを追求するサービス「EaSyGo」サービスを展開する。

 
川村麻紀氏 ベーカー&マッケンジー法律事務所 パートナー 弁護士
不動産取引法務を中心に手掛ける。国内外のクライアントに対し、オフィス・居住・商業施設、リゾート関連プロジェクトにおける、資産取得・処分、リース、建築等についてアドバイスを提供。その他、日系企業の海外投資案件、クロスボーダーM&A 案件等を多数取り扱う。The Legal 500 Asia Pacific2017 年~ 2023 年版の不動産法分野において、国際法律事務所・ジョイントベンチャー部門で次世代を担う弁護士/パートナー弁護士として選出される。

 
川井賢武氏 LONGEVITY PARTNERS COUNTRY DIRECTOR
不動産・建築領域に特化したロンドン発のグローバルESG コンサルティングファームLongevity Partners で、日本及びAPAC 地域における全オペレーションを統括。不動産投資とクレジット投資を専門として、金融業界で16 年以上の経験を有する。Longevity Partners 入社以前は、農林中央金庫でクレジット投資ポートフォリオ・マネージャーを務めたほか、センターポイント・デベロップメントにてインベストメント・マネージャーとして物流不動産投資・開発業務に従事。

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