――イザベラ・ロー 氏 [ガウ・キャピタル・パートナーズ] に聞く
日本市場の評価
欧米や香港、シンガポールは金利がキャップレートを上回る“ネガティブキャリー” の状態にある。一方で日本はまだ金利がキャップレートを下回りイールドギャップが残されている。仮にキャップレートが25bps程度下がったとしても、その点に変化はない。
日本でも金利は上昇するだろうが、その幅はマイルドに留まると見込まれるし、金融市場も不動産市場もそのことを織り込んで動いていると思われる。個人的には日銀がうまく市場にメッセージを出し、金融政策をコントロールしていると感じる。
2024年の不動産投資プレーヤーは利上げやそれに伴う価格変化に備え、全体的に様子見姿勢を幾分強めるものと考えられる。
とくに欧米系のファンドは今年以降、本国での損失を補填するほかポートフォリオの比重を調整するために日本のオフィスビルを売却しており、この動きが継続するかもしれない。
国内系のプレーヤーはそうした心配がないため、希少なトロフィー物件が出回れば強気の姿勢で買いにくるのではないか。
当社は以前から、割安な物件を取得して価値を高める手法に取り組んでいるが、そのスタイルを2024年も貫くつもりだ。キャップレートが上昇する分、NOIも引き上げていく必要がある。共用部の改修や空き区画の迅速な埋め戻し、賃料増額交渉などこれまで駆使してきた戦術をフルに活用していく。
アセットタイプでは住宅、物流施設、データセンター(DC)、ホテルに注目している。住宅、物流施設、DCは大都市圏での安定的な需要成長、ホテルは円安で加速するインバウンド需要を好感している。一方オフィスビルは大量供給や働き方変化の影響をふまえ、選別的に投資する方針。
当社はデベロッパーほど建築コストのコントロールを得意としているわけではないので、フォワードコミットメントを含め、基本的に既存物件を取得する形となる。新規取得の際は、インフレに連動して賃料を上げやすくするため、賃貸借契約期間の短い物件を志向したい。
不動産投資の世界でも徐々に定着してきたESGが、今後さらに重要となるとみている。今後は「支払うべきコストとしてのESG」から、「リターンを高める手段としてのESG」に考え方をシフトすべきだろう。
物件の環境性能を高めれば、グローバル企業を誘致でき賃料の上積みを期待できるほか、コア志向の大口投資家を出口候補にでき売却額の上積みも期待できる。またグリーンローン調達によるファイナンスコスト削減も見込める。実際に当社が物流施設ポートフォリオを取得した実例では、その恩恵を受けることができた。