南国殖産「シェラトン鹿児島」にみるプロジェクトへの想いと狙い
鹿児島に本拠を構える総合商社の南国殖産は2023年5月、フルサービスホテル「シェラトン鹿児島」をオープンした。鹿児島県内では初の外資系フルサービスホテルとなる。
ホテルは同社が主導した鹿児島市内での再開発プロジェクト「キラメキテラス」の一角を占める。このプロジェクトは市交通局の跡地を再開発したもので、ホテルのほか病院2棟(急性期・慢性期)、商業ビル、分譲マンション、エネルギーセンターなどで構成される。
ホテル開発の背景について、代表取締役社長の永山在紀氏は「観光需要とホテル供給とのミスマッチ」を挙げる。観光需要に関しては桜島や屋久島、奄美諸島などの自然資源、歴史や料理などの文化資源が豊富な一方、インバウンド客からの認知度がまだ高くないことから、今後大きな増大が期待できるとする。
ホテル供給に関しては九州各県のなかで鹿児島と佐賀にだけ外資系フルサービスホテルが存在せず、とくにインバウンド富裕層の取り込みが不十分であったとする。そのうえで全世界1億8,000万人におよぶ会員組織「マリオット ボンヴォイ」を抱えるマリオット・インターナショナルの集客力を評価して、シェラトンの誘致を決めた。
「鹿児島を訪れる観光客も、鹿児島空港経由で屋久島や奄美諸島に直接向かう場合が多く、市内まで経済効果が波及してこなかった。富裕層が市内にあるシェラトンを拠点に県内各地を周遊してもらう形をつくれたら」と永山氏は話す。
ホテルオープンにあたり南国殖産は、100%出資のホテル経営会社である南国ホテルズを設立。南国ホテルズがマリオット・インターナショナルに運営を委託している。南国殖産にとっては初のホテル経営進出となる(自社保有の鹿児島中央ターミナルビルでは西鉄ホテルズに賃貸、ソラリア西鉄ホテル鹿児島が営業中)。「経営リスクを負う形になるが、観光需要の伸びと合わせてアップサイドを積極的に取っていきたい」(同氏)。
シェラトン鹿児島の客室は全228室で、スイートルームも含めた全10タイプを備える。客室のなかには桜島を冠した部屋タイプがあり、それらは窓から桜島の景観を一望できるようになっている。共用部については5種類のレストラン・バー、温泉の足湯・大浴場、フィットネスジム、スパ、宴会場などを設置。さらにスイートルームなど上位ランクの客室を利用する宿泊者専用のクラブラウンジを設けている。また宿泊者向けのソフトコンテンツについては、地元伝統芸能の見学・体験などのアクティビティを盛り込んだプラン開発や案内を実施しているという。
1室あたりの宿泊単価は1泊3万3,800円から、最上級の「桜島インペリアルスイート」については同28万円からという設定(いずれも税サ込)。オープン1か月の時点では、桜島ビューの客室が圧倒的人気を集めているという。また宿泊者の半分以上がマリオット・ボンヴォイの会員とのことだ。
オープン初年度の2023年度は全体で6~7割程度の稼働率を見込む。「最初のうちはスタッフの習熟度向上を待つ形で無理に稼働率を上げない方針。それがホテルの質、ひいては宿泊単価の維持につながるはず」と永山氏は狙いを明かす。なおスタッフの9割は地元で採用している。
ホテルのあるキラメキテラスの街区には病院があり、鹿児島県には指宿や霧島など著名な温泉地があることから、メディカルツーリズムやヘルスツーリズムの拠点としての需要も期待できそうだ。それについて同氏は「病院側が外国人の受け入れ体制を十分に整備できていないことから、すぐに受け皿となるのはむずかしいが関心はある」と述べる。一方で、万が一身体に何かあっても病院がすぐ近くにあるということは、宿泊者に安心感を与える効果が期待されるとも話す。
シェラトン鹿児島の総事業費は180億円(キラメキテラス全体の総事業費は500億円)。鹿児島および九州の地銀やメガバンクからプロジェクトファイナンスを調達した。物件については南国殖産が中長期で保有し続ける構えだ。
今後の事業展開について永山氏は、先述した宿泊需要の高まりをふまえ、さらなるホテル開発を検討したいとの意向を示す。
「当社開発の新築オフィスビルをきっかけに、鹿児島中央駅前が県内の一大ビジネス集積地に進化した歴史がある。それと同じようにシェラトン鹿児島をきっかけとして、県内のホテル市場に風穴を開けていく」と同氏は意気込みを示した。