執筆|北村剛史 日本ホテルアプレイザル 代表取締役CEO/㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役/一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
SDGs とは「Sustainable Development Goals」の略で、よりよい世界を実現するために2030年までに達成を目指す国際目標として2015年ニューヨーク国連本部で提案された概念であり、活動目標として17項目のゴールがあげられている。宿泊業界において、その取組みが強く求められているのは、宿泊施設が世界のゴミの排出量の約14%、温室効果ガス排出量の約8%を占めるといわれる「観光市場」の構成員であるからだ。
世界では、自然環境保全、生物多様性の尊重、地域文化の維持、地域貢献、会社としての持続可能な運営管理が追求されている。サステナビリティに「本気で取り組み」「本気で成果を追求する」ことが世界では付加価値になっており、事業性にも影響を及ぼす環境となりつつあるからだ。サステナビリティの取組みが形式だけという姿勢は、海外の「本気」の取組みにふれている旅行者にたやすく見抜かれてしまう。サステナビリティの対応は、費用対効果を考えるような次元で捉えてはならない。
またSDGs の取組みには追加設備投資が必要ではと考えられがちであるが、世界規模で求められている取組みの大半がマネジメントレベルである。現状維持という狭義の「サステナビリティ」からより広義、つまり地域や自然にポジティブな貢献を実行する「修復」(Restorative)、さらにその上位概念の「再生」(Regenerative)につながるマネジメントが求められている。
環境に配慮した宿泊施設には間接的効果も見込まれる。環境配慮の徹底した姿勢は、そのホテルのハードウエア(建物の心地よさ等)、ソフトウエア(サービスレベル)、ヒューマンウエア(スタッフレベル)に対して正の連想につながり、ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアそれぞれに対して利用者に期待感を抱かせ、ホテルや旅館の選択時における判断の手がかりを与えうる可能性がある。環境配慮型の運営は、経済的対価等という直接的効果というよりも、むしろ事前の印象を左右するという意味で、利用者がホテルや旅館を選ぶ際の間接的効果に大きな意義をもつことになろう。
宿泊施設は、その事業特性からステークホルダーが多岐にわたる。その結果、宿泊施設に求められる SDGs 活動は非常に幅広くなり、何から取り組むべきなのか判断に悩む。宿泊施設に関連するサステナブル活動あるいはSDGs対策は非常に広範囲に及ぶため、国際的に認められた基準を応用することで活動の手がかりともなろう。海外では大枠の基準をクリアするためにさらに細分化された基準が用意され、実践されている。
SDGs の取組みは、宿泊施設にとって安全性を地域に拡張した概念であり、顧客からは「見えない部分」となるので、取組み情報の発信については高度な信憑性が求められる。つまり、顧客に対する訴求力向上だけではなく、社会経済全体を通じて対策を講じる必要に迫られている大きな課題であり、いまこそ素晴らしい自然環境を次世代へ「遺す」責務が、われわれのジェネレーションに求められているのであり、「本気」での取組みがまったなしに求められている。
(つづきは本書で)