2019年観光モデルに戻ろうとするのではなく、
新しい観光モデルを目指すべき
(前段略)
星野 2019年までは観光産業の活性化が最も重視されていました。地域住民や観光地の周辺にいる人たちはあまり恩恵を感じていなかった。ビジターが押し寄せ、むしろ日常生活にマイナスの影響があるオーバーツーリズムの課題も一部の地域では発生していました。“観光”が地元で尊敬され、ありがたいと思ってもらえる産業として持続していくためには、地元の人たちにとって、ぜひ来て欲しいと思えるビジターを集客できるようにならなければなりません。
前述※のハナウマベイは、1日当たり4,000人いた日帰り客を1,000人に制限する大胆な策に踏み出しています。日帰り客を完全事前予約制にして入場料金も倍額に変更、さらには週7日のうち2日はビーチを閉鎖して海が自己再生する時間をとるなどの措置を新たに講じています。コロナ禍になって、ビジターでごった返していない我が街って快適だよね、と世界の観光地が気がついたのです。これら先進事例に引っ張られるように世界各地が動いていくと思っています。日本も出遅れてはいけません。コロナ禍以前、京都・渡月橋が観光客で溢れかえり、写真を撮ることさえままならなかったあの光景に戻すことが本当に良いことなのか。日本のインバウンド観光政策は、2030年に6,000万人という数値目標を設定していますが、人数だけではない目標設定も大事になると考えています。
そもそも観光立国の実現を目指した政策は、人口減少が進む地方で観光が新しい経済基盤となることを期待したものだったはずですが、2019年インバウンド宿泊者数の60%は大都市を中心する5都道府県に集中しています。トップ10都道府県で全体の80%以上を占め、それ以外の37県ではインバウンド政策の経済効果を十分に感じることができていませんでした。全体のインバウンド数をコロナ禍前の3,000 万人レベルに戻そうとする時には、同時にこうした格差の解消を実現していくことが大事だと考えます。
前述※ハワイ大学の研究結果によると、全米No.1 ビーチに選出されたこともあるハナウマベイ(アメリカ・ハワイ州オアフ島)では利用者が激減したことで水質が改善して透明度が増し、大きな魚やアザラシがやってくるようになって、ハナウマベイ本来の美しさはこうだったんだ、と見直されました。
事業者・地域(環境)・旅行者
それぞれが果たすべき責任・生まれる利益
星野 単純に2019年観光モデルに戻ることが正解ではないとすると、ポストコロナの観光のあり方、新しいベクトルとして、星野リゾートは「ステークホルダーツーリズム」という概念を提唱しています(別表)。〈詳細は本誌にて〉
別表「ステークホルダーツーリズム」概念図