自社の存在を訴える手段の1つに「ブランド」がある。葬祭事業者においては、「屋号(もしくは会社名)」と「会館ブランド名」がその2トップといえるだろう。特に老舗葬儀社においては、創業当時から冠した会館名を地元住民らが親しみを込めて略することが多い。したがって、見慣れない会館名をつけることに躊躇する事業者も少なくないはずだ。しかし、葬送のあり方が変わるなか、消費者ニーズを捉えたブランディングが重要視される時代となった。
今号では、4社のブランディング戦略に着目。各社の取組みからみえてきたのは、単なる「会館名」のみならず、「企業ブランド価値」なども高めながら、さらなる地域住民への浸透を図るCI戦略に通じる手法だった。
創刊以来、「月刊フューネラルビジネス」編集部が行なっている新設会館の開業動向をみると、ここ数年は200件超で推移している。しかし、そのほとんどを家族葬会館が占める状況となった。その背景には、今回のコロナ禍で加速度的に進行した葬儀規模の小規模化や、それに伴う一日葬・直葬の増加が大きく影響していることもあるだろう。
ところで、新設会館の名称に着目すると、既存会館とは異なる会館名を冠した、いわゆるセカンドブランドでの出店がふえている。つまり、小規模葬に特化した会館には、既存の大型・中型会館と異なる「新ブランド」と位置づけることで、自社内においても差別化を図ろうとする構図が主流になりつつあるということだ。
その根底には、会館建設が全国的に拡大した1990年代後半~2000年代半ばに開業した大多数の会館が複数式場を有する会館で、そのほとんどが「メモリアルホール〇〇」「セレモニーホール〇〇」「〇〇会館」「〇〇斎場」と称し、かつ、数百人規模の会葬者を受け入れる大型会館というイメージが定着したことから、昨今の消費者から敬遠されがちという事情もあるだろう。
古くから地域の葬儀を支えてきた老舗事業者ほど、地元住民からの認知度が高すぎるため「小規模葬には対応してくれない」という企業イメージが定着した弊害でもある。
企業名、屋号、会館名が多くの地域住民に認知されていることは会社にとって大きなメリットだ。しかし、捉え方しだいでは、そのメリットがデメリットになってしまう恐れもある。そうした意味においては、これまで葬祭事業者が(意図せずとも)取り組んできたブランディング手法は、「マスターブランド戦略」と呼ばれるものに該当するといえる。
マスターブランド戦略とは、メインブランド(企業グループが保持するグループブランドや、単一企業によって構築されるコーポレートブランドがある)の知名度を軸に事業展開を行なう手法である。この場合、企業が消費者へアピールするのはメインブランドのみであり、葬祭事業者においては、企業名や会館名などがこれに当てはまる。
ここに新たなブランド(家族葬会館ブランドなど)を加えて展開するとなると、各社が行なうべきブランディングは、「サブブランド戦略」に移行させる必要がある。
サブブランド戦略とは、従来のマスターブランド戦略と、同一市場内に複数のブランドを展開するマルチブランド戦略を折衷させたもので、これまで確立してきたメインブランドがもつ価値や訴求力をセカンドブランドの伸展に活用できることが特徴である。
しかし、この利点を鵜呑みにし、安易にセカンドブランドを立ち上げるのは早計である。入念なマーケティングを行なったうえでセカンドブランドを投入しても、消費者や競合他社の動向に柔軟に対応できなければすぐに立ち行かなくなるからだ。また、自社がセカンドブランドを展開することによって競合他社がどう反応し、それによって消費者の動きはどう変わるのか、常に一手先を予見した事業戦略も必要不可欠である。
とはいえ、小規模会館はいまやスタンダードになったといえる。そこでネックとなるのが、新たに「低価格層(もしくは高価格層)」を開拓する際の「値下げ(もしくは値上げ)」問題だ。顧客は価格に対して敏感であるため、高単価の商品プランに対してはシビアに反応する。かといって安易な値下げは、これまで長い時間をかけて築き上げてきたマスターブランドを毀損してしまうことになり兼ねない。
今号では、葬祭事業者の「ブランディング戦略」をあらためて考察した。本誌では、2017年2月号(no.243)の「進む葬祭会館のマルチブランド化―その事業戦略と効果―」以来である。その際、強調したのが「コーポレートブランド」(本稿でいうマスターブランド)の浸透を優先させることが第一であるということだった。
すなわち、「社名」「屋号」「会館名」……そのいずれでもいいが、どのブランドが地域に浸透しているかを見極め、そのいずれかを基軸にサブブランド戦略を練ることが大切になってくる。
ブランディングの実践手法(戦術)は、22年9月号(no.310)でも特集したSNSツールをはじめ多岐にわたる。つまり、ブランディングを行なう先となる複数スポット・ターゲットをいかに見つけるかという戦術をもつことがカギを握るのだ。
ただし、それ以前に重要なのは、「マスターブランド」を毀損しない展開を、いかに図っていくかが大切になるのはいうまでもない。
(ケーススタディは本誌で)