――日本都市ファンド
運用資産規模1兆2,074億円(2022年7月末現在)の総合型REITである日本都市ファンド(JMF)は、ツール・サービスを活用したESG推進の取り組みを進めている。
「JMFでは旧日本リテールファンドの時代から、運用する商業施設でテナントのみならず周辺地域の持続可能性を強く意識しており、ESGの考え方とはおのずと親和性があった。総合型のポートフォリオとなってからも、そのスタンスに変化はない」。そう語るのは、JMFの資産運用会社KJRマネジメントの都市事業本部 副本部長 大島英樹氏だ。
ESG推進にあたり、ツール・サービスの導入は定量的に効果検証しやすい点で有益な手段と捉える。成果を定量化できることは、取り組みの改善や他施設への横展開、投資家への説明といった場面でプラスに作用するからだ。「ツール・サービスはあくまで目的ではなく手段。ESGを考慮しているような雰囲気づくりに終始するのではなく、REITを運用する立場としてきちんと形ある結果に結び付けてこそ、取り組みに持続性が生まれるはず」(同氏)。
ここからはJMFが運用施設で採用したツール・サービスの事例を見ていこう。
千葉県我孫子市の商業施設「あびこショッピングプラザ」では、今年3月に業務用AI 搭載自動清掃ロボットを本格導入した。導入の経緯として、清掃スタッフの人手不足と高齢化への対応やBMコストの低減があったそうだ。
本格導入に先立つ試験運用では、清掃時間は以前から67%削減、水使用量は同35%削減され、生産性と資源効率の向上が示された。加えて清掃品質の向上と均質化も達成した。
JMFはあびこショッピングプラザでの清掃ロボット導入をふまえ、ロボットを活用した物件運用のアイディアを構想しはじめている。「清掃と警備を同時にこなすロボット導入のほか、それを活用したシェアオフィスの夜間営業などが考えられるかもしれない」(大島氏)。
名古屋市西区の商業施設「mozoワンダーシティ」では、今年4月に段ボール専用のリサイクルボックスを設置した。同施設では前年より独自のECサイトを展開しているが、商品配送で段ボールの使用を余儀なくされていた。そこで施設としての資源循環を構築するとともに、エンドユーザーのリサイクル意識向上を図るべく設置を決めた。
リサイクルボックスにはQRコードを提示しており、それを読み取ると回収された段ボールのリサイクル量を確認できる。それによりエンドユーザーの当事者意識を芽生えさせるほか、環境配慮を意識した商業施設としてのファン開拓につなげていく。
今後はマイボトルを持参したエンドユーザーへのポイント付与など、既存の施設専用アプリを活用した資源有効活用の取り組みを検討したいとしている。
先述の2物件を含む全国の商業施設およびオフィスビル約30物件では、今年7月にトイレの混雑抑止メディアサービス「VACAN AirKnock Ads(バカンエアーノックアッズ)」を導入した。これは個室トイレに設置されたデジタルサイネージで利用者に混雑状況と利用時間を知らせることで、トイレの長時間利用を減らし混雑抑止につなげるというもの。加えてサイネージ上に広告を配信することで収益化を図るほか、収益の一部を国際NGOのウォーターエイドに寄付する。
サービスの導入により、トイレの利便性改善を通じた施設満足度向上や寄付を通じた途上国支援を実現できる。またサイネージを通じJMFやテナントの取り組みをPRできるほか、トイレ利用状況の可視化を通じた清掃頻度や備品確保の最適化にもつなげられる。「施設運営の改善を図るうえで、トイレは重要な鍵をもつことを思い知らされた」(大島氏)。
上記のほかにも、遊休スペースを用いたESGの取り組みがある。東京都大田区の商業施設「マチノマ大森」では屋上駐車場の一部を活用し、貸し農園「シェア畑」をオープンした。駐車場の稼働率が低下したことを受けて、全国100か所以上で貸し農園を運営するアグリメディアを誘致した。駐車場スペースで野菜を育てることによるCO2削減効果のほか、農作業を通じて人々の農業や食に対する意識を高める効果を見込む。
一連の施策などを通じたJMFによるESGへの取り組みは、GRESBレーティングの5スター取得やMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数への組み入れなどの形で高い評価を受けている。また直近の1~2年では、国内投資家のESGに対する関心が急速に高まっており、今後の取り組みにおいてもプラスに働きそうだ。
最後に大島氏は「ツール・サービスについては、スモールスタートの考え方でまずトライしてみることが大切だと感じる。そのスタンスで今までできなかったことや付加価値向上の実現のため、よりよいツール・サービスを発掘していきたい」と語っている。