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――家族葬ホールかのん/東三葬具㈲[愛知県豊橋市]

自宅葬風の葬送空間を目指し
ペット葬も可能な家族葬会館

[特集]葬祭会館リニューアル戦略| ケーススタディ

 東三葬具の創業は1948(昭和23)年と80年近い歴史があり、豊橋市内でも有数の老舗葬儀社だ。同社は、低稼働だった自社会館をリニューアルし、家族葬専用ホール「家族葬ホールかのん」としてオープンした。あわせて、隣接する倉庫をペット葬専用のセレモニー会場と納骨堂を設けた「ペットのやさしいお葬式」に改装。「家族葬+ペット葬」プロジェクトをスタートした。同社社長の居平文孝氏と、専務の居平啓太氏に話を聞いた。

コロナ禍中に「家族葬+ペット葬」プロジェクトをスタート

 同社のメイン会館は、97年にオープンした「セレモニーホール・リーブ」。豊鉄渥美線柳生橋駅より徒歩で約6分、東名高速道路豊川ICより車で約25分の住宅地に立地。敷地面積は約700㎡で最大100台分の駐車場を有する。鉄骨造地上2階建て。館内には、200人収容の大式場と30人収容の中式場の2式場を有している。

 14年頃には、セレモニーホール・リーブに隣接し倉庫として使用していた建物を別館に改装、20人規模の家族葬会館としてオープンした。小規模葬ニーズを見越した方策だったが、この会館の稼動はあまり振るわなかったという。「この地域は町内のつきあいが深く、会葬者が比較的多いので、家族葬はあまりふえませんでした。家族葬となった場合でも本館の中式場で事足りておりました」と代表取締役の居平文孝氏は分析する。

 この別館が再度リニューアルされ、「家族葬ホールかのん」として生まれ変わることになる。その背景には2つの要因があった。1つ目は、中式場でも広すぎてしまう家族葬のニーズの本格的な高まりだ。居平専務は「別館の家族葬会館が稼動していないなか、コロナ禍で一気に家族葬が主流となりました。お客様が第一に言われるのは「家族葬できますか?」で、商圏内にも家族葬会館が続々とオープンし、『当社でもそろそろしっかりした家族葬会館をつくらないと……』という話になったのです」と語る。

 2つ目は、居平専務の着任だ。高校卒業後に上京し、大学卒業後も東京で別の仕事に就き結婚もしていたが、2代目社長である専務の祖父が亡くなったのを契機に帰郷・入社した。戻ってきてすぐにコロナ禍となり施行件数が落ち込むなか、父である社長とともに自社ならではの思いを込めた唯一の家族葬ホールをと導き出したのが、「家族葬ホールかのん」だったのだ。

 さらに、「家族葬会館以外にもう1つ柱をつくりたい」(居平専務)と、ペット葬にも着目した。「ペットもかけがえのない『家族』」という思いがあったほか、市が運営する火葬場は合同火葬のみのため、ペットのお葬式および個別火葬を提供できれば、ニーズは高いと思われたことからの判断だ。こうして別館を家族葬ホールかのんにリニューアルすると同時に、別館隣の倉庫として使用していた場所を、ペット葬専用のセレモニー会場(1階)と納骨堂(2階)を設けた「ペットのやさしいお葬式」に改装、いわば「家族葬+ペット葬」プロジェクトがスタートした。23年6月に着工し、同年12月に先行してペットのやさしいお葬式がサービス開始、リニューアルした家族葬ホールかのんは24年12月のオープンとなった。

唯一無二の「家族のための式場」で
地元のリピーターに応える

カフェのような外観の「家族葬ホールかのん」。奥に隣接するのが、ペット葬施設

 「家族葬ホールかのん」は鉄骨造地上2階建ての1階を使用する戸建て貸切りの家族葬専用会館で、新装前の施設構成は式場兼リビングと遺族控室の和室だけのシンプルなものだった。「家族葬会館をつくるのであれば、ありそうでどこにもない空間、唯一無二の空間をつくりたいと考えました」という居平専務の言葉通り、最大の特徴はその空間づくりにある。

 式場兼リビングの室内は床面をはじめ無垢の自然木で設えられ、その一画には本物の薪をくべる暖炉を置いた土間を設けるなど、全体的に木の温もりが感じられるつくりとした。椅子(ベンチ)やテーブルなどは利用者が自由にレイアウトでき、館内での過ごし方も自由。靴を脱いで板の間に上がり、子どもが駆け回ったり、寝転がったりできるように工夫している。

 コンセプトは「故人と最後にゆったりと団欒の時間を過ごせる空間」である。利用者は施設を気兼ねなく自由に使い、思い思いのレイアウトで、自宅のようにくつろいで過ごすことができる。まさに「家族のための式場」だ。かつて同社の居平社長が施行してきた「自宅葬」の復活を意識したという。「本物の、心地いい空間を目指して、そこに注力したのです」と居平専務は言う。専務自身の前職は映像制作のクリエイティブディレクターであり、ともに戻ってきた妻はグラフィックデザイナーだったことからも、空間デザインに関するこだわりがうかがえる。

 設計・施工については、葬祭会館の専門家ではなく、住宅や店舗のリフォームに長けた建設事業者を抜擢した。その事業者が手がけたカフェを見学し、「私たちが思い描くホールの雰囲気そのものだ」(居平専務)と感じて依頼した。実は暖炉の設置は、コンセプトを解釈したその事業者から提案されたものだ。

式場兼リビング(左)は、椅子やテーブルなどを利用者が自由にレイアウトできる。土間(右)には暖炉を配置

 家族のための式場として、家族であるペットの同伴も可能であり、ともに故人を見送ることができる。床面はペットが歩いても傷がつかない仕様になっているため、ペットの行動を制限するケージや下に敷くシートも不要だ。「以前、葬儀のときにペットを『お留守番させているのです』と話されていたご遺族がいて、ペットも家族同様に参列できる式場をつくりたいと考えていました」と居平専務。いまでは故人の葬儀への参列だけでなく、ペット葬そのものにペット同伴の参列という例もある。

 祭壇のレイアウトも自由で、供花も一般的な生花スタンドではなく、アレンジメントフラワーなど結婚式で使われるような花で故人を見送る「花想式」を提供。ハード面、ソフト面ともに「葬儀はこうでないといけない」という固定観念を払拭する会館だといえるだろう。

 式場にはピアノが常設され、故人の好きだった曲の演奏や音楽葬も可能であり、葬儀以外の利用でミニコンサートの会場として使用したこともあるという。実は社長の文孝氏夫妻は音楽が趣味で、「かのん」という会館名はメロディが時間をずらして重なり合う楽曲形式「カノン」から夫妻が命名したものだ。

 リニューアルに伴った大々的な告知・宣伝は行なわなかったが、利用者からは「こんな式場があるのですね」「自宅にいるようで過ごしやすかった」「家族と一緒に過ごせる空間が気に入りました」といった声が聞かれ、満足度は非常に高い。それがクチコミで広がり、家族葬ホールかのんの評判は徐々に広がりつつある。「実際使ってみた方には満足していただいています。事前相談で見学された方が即決定したり、ペットと一緒にいられることが決め手で利用される方がいたり、といったこともありますね」と居平専務は話す。


東三葬具の展望は本誌でお読みいただけます。また本誌では、会館の平面図や内装写真も豊富に掲載しています。

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