大谷宗徳氏[NSKREホスピタリティ㈱ 社長執行役員/日鉄興和不動産㈱ 事業開発本部 事業開発二部 参与]
[INTERVIEW]
総合デベロッパーの日鉄興和不動産㈱が、レジデンシャルホテル(アパートメントホテル)事業への参入を打ち出したのが2022年7月。24年3月には、その第1号となる「&HereTOKYOUENO」(アンドヒア東京上野)が東京・上野に開業した。
インバウンド需要の順調な回復が進むなか、ビジネスホテルでもシティホテルでもない新しい宿泊カテゴリーとして期待が寄せられる同社のレジデンシャルホテル事業。その運営を担う同社100%出資子会社のNSKREホスピタリティ㈱社長執行役員の大谷宗徳氏に話をうかがった。
<中略>
――そこではじめたホテル事業で、レジデンシャルホテルの業態に着目した狙いをお聞かせください。
大谷 この業態については前職時代に携わったことがあり、もう10年ぐらい前になりますが、その時点でこのスキームはブルーオーシャンだと感じていました。今回、改めて事業スキームを知人にレクチャーしてもらいましたが、集客はOTAによって行なえること、自動チェックイン機によってスタッフによる精算業務が不要なこと、飲食機能もほぼいらないこと、その代わりきちんと部屋を提供することができればいいという宿泊特化型のレジデンシャルホテルであれば、BtoCの経験が乏しい当社でもオペレーションが可能だと判断しました。グループとして、今後、もっと大きなホテル・宿泊事業を行なうにしても、まずはオペレーションが可能な比較的難易度の低いカテゴリーから着手したという感じですね。ただ、お客様はほぼインバウンドですので、スタッフの確保、育成は注力する必要があるとは考えていました。
――5年前というと、コロナ禍直前ですが、当時のホテルの市場環境についてはどう捉えていましたか。
大谷 私が転職してきたのが20年1月ですから、当時は国を挙げてインバウンドをさらに伸ばそうとしている時期で、市場自体はまだまだ伸びると感じさせる環境でした。一方で、ビジネスホテル自体は施設数や宿泊単価の面で頭打ちでしたし、現状の仕組みのなかでは大手ホテルチェーンに利用者を取られるだけになる可能性が高い。そういう競争よりも、異なるターゲットゾーンでやるべきだろうと考えたのが「&Here」です。その後、すぐに新型コロナが発生しましたが、私としてはこの状況が何年も続くわけはないのだから、これは逆に狙い目だと考えていました。インバウンド需要を倍増するという、国としての計画があるわけですから、コロナ禍明けには最低でも19年ベースにはすぐに戻るだろう。であれば、コロナ禍が明けるころにオープンできればいいという考えで準備を進めました。その段階では、用地の確保もしやすかったですし、工費もそんなに高騰していませんでした。私の見込みより1年ほどコロナ禍は長期化しましたが、コロナ禍明けのインバウンドの急回復は周知のとおりです。
――「異なるターゲットゾーン」とは、どのような層を想定されているのでしょうか。
大谷 結局、そこが最大の参入動機になるのですが、日本のホテルはシングル、ツインが主体で、3人以上で泊まれる客室が圧倒的に足りません。日本という国は、いわゆる海外の方々から見ると観光地でありリゾート地です。当然、家族で訪日するケースも非常に多い。にもかかわらず家族で泊まれる部屋がない。家族4人で来てツインを2部屋とるよりも効率的な宿泊環境が提供できれば、そのニーズに応えることができます。また、私はインバウンドに限らず、中長期・多人数での宿泊ニーズというのは国内需要においても間違いなくあると考えています。地方の方々が東京に遊びに来るときも、いってみればリゾートなのですから同じことがいえます。
――客層はインバウンドに限定していないということですね。
大谷 まず最初に考えるのが家族・ファミリーで、次に友人同士、そして国籍という順番ですね。インバウンドなのか国内客なのかという区分けではなく、国内のグループ旅行や女子会、アクティブシニアといった枠組みも含めて、家族や仲間と一緒に40㎡の部屋でくつろいでもらう宿泊施設をつくろうという考え方です。
――新しい業態ですから、適した立地もこれまでの宿泊施設とは異なるのでしょうか。
大谷 まず、エリアでいえば首都圏と大阪です。大阪といってもビジネスの要素が強いキタではなくてミナミのほうで、その次にくるのが福岡、札幌といった都市部です。やはり街自体の魅力度が高くないと3泊はしてくれません。インバウンドの方々は行動範囲が広いので、その東京や大阪といった拠点から1、2時間で行ける日帰りゾーンの仙台や名古屋といったところでの展開はまだまだ厳しいかなと考えています。そうなると当然、横浜も神戸も、京都も厳しい。福岡を拠点に九州を回る、札幌を拠点に函館や小樽に行くというスタイルで考えると、広島に泊まって宮島や四国へというパターンは考えられますが、やはり連泊となると東京と大阪といった回遊するためのアクセスがいい場所になるでしょうね。
――「&Here」の第1号は東京・上野に開業されましたが、都内でさらに立地を絞るとしたら、どういう場所になるのですか。
大谷 都内でいえば新宿や渋谷は当然魅力的ですが、一方で土地の確保が課題です。また、たとえばターミナル駅ではない蔵前や浅草橋といったエリアでもマーケットとしての可能性は高いと考えています。先ほど申し上げた通り、インバウンドの方々はよく歩きますので、蔵前や浅草橋であれば、そこから銀座や上野までは普通に歩きます。日本橋でも東日本橋や横山町といったエリアでも十分可能性があるのではないでしょうか。ただし、みなさんキャリーケースで来ますので、駅やバスターミナルからの道は平坦が好ましいなど、細かい条件もあります。当社では現在、そうしたエリアの既存ホテル客室総数のうち、トリプル以上の客室が5%以内であれば積極的に出店していく方針です。
――「&HereTOKYOUENO」はレジデンシャルホテルでもかなり大規模な印象を受けました。同ホテルの特徴を教えてください。
大谷 上野はご承知の通り、成田空港や羽田空港へのアクセスにも恵まれているうえに、訪日外国人が多く集まる東京でも特に人気のあるエリアです。東京国立博物館や上野動物園といった文化・レジャー施設に加え、アメ横など日本文化を体験できるスポットが集中しています。
「&HereTOKYOUENO」は、JR「上野」駅から徒歩7分、東京メトロ千代田線「湯島」駅からは徒歩2分という高いアクセス性をもつ場所に145室というスケールで開業いたしました。フラッグシップとなる1号施設はやや大きめにつくりましたが、サイズ感としては100室程度が適正と考えています。それ以下では、経営的な観点から充実した付帯施設を備えることがむずかしくなるからです。
客室は南北に面し、北側は上野公園の自然に面する風光明媚なエリアで、南側エリアは江戸時代からの伝統工芸などを取り扱う老舗店などが軒を連ね、それぞれ趣が異なる客室をご用意し、お好みの部屋を選ぶ楽しさを提供しています。客室の約7割はファミリータイプで、長期宿泊のための各種設備として、ミニキッチン、冷蔵庫、電子レンジ、ダイニングテーブル、さらにはベッド以外にもソファスペースや和室なども用意しています。[図表2]
――これまでのレジデンシャルホテルと比較して、共用スペースが充実している印象も受けました。
大谷 滞在を快適にする共用施設には力を入れています。1階ロビー階には、ホテルラウンジとカフェスペースのほか、滞在時にビジネスの時間を快適に過ごせるシェアオフィス「WAW」を備えました。ロビー展示のアートワークは、組紐やアクリル樹脂加工といった地元の工房と共創し、街への理解を深める仕組みづくりを構築しています。在日外国人スタッフが周辺情報資料や周辺マップを作成した案内所、上野公園の壮大な景色を楽しめる大浴場もあります。
<続きは本誌にて>