――編集部
編集部では、市場規模に対する葬祭会館の過不及状況を知るため、新たな指数「会館過不及指数」を考案した。「月刊フューネラルビジネス2025年2月号|総論」では、その算出プロセスの解説や、都道府県・政令指定都市(東京特別区を含む)の会館過不及指数一覧を掲載しているほか、札幌市を例にとり計算過程を示している。Web版ではその一部を抜粋して紹介する。
2025年がはじまった。葬祭業界では、コロナ禍以降、葬儀の縮小化・簡素化・省略化のトレンドは止まらず、葬祭会館もこうした流れに乗じて小規模化・コンパクト化が推し進められ、いまや大勢を占めているといっても過言ではない。
そうしたなか、24年のトピックとして、全国の新規会館数が年間で450か所を超えたことがあげられる。まだ十分な精査作業を終えていないが、この新設数は本誌で全国の会館所在調査をはじめて以来、最も多い数値だ。その結果、23年までにオープンした既存1万1,053か所(24年12月現在)に24年オープン分を合わせた全国の総会館数は、1万1,500か所を超えると予測される。新設会館ラッシュは25年も継続するものと思われる。
これまで本誌では、都道府県および市区町村別の1会館当たりの死亡数を算出・提示してきた(参照:「月刊フューネラルビジネス2024年6月号」)。当該マーケットの年間死亡数を、所在する会館数で割り算して求めるもので、当該マーケットの会館数が過剰であるか不足しているかを判断する材料となる指標である。北海道を例にとると、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」の23年1月1日~12月31日までの年間死亡数(住民票削除数)は、7万5,220人であり、編集部データにおける北海道の葬祭会館は446か所である。そこから、7万5,220人を446か所で除すると、1会館当たり死亡数は168.7人と割り出せる。これを施行件数と読み替えると、北海道では一律にならすと、1か所の会館で年間168件の葬儀を施行できることになる。とはいえ、現実には競合同士によるパイの奪い合いによって、独占、寡占、乱立など、その市場の優位性をめぐる争いが生じる。
ここで、標準的な年間施行件数を考えたい。従来の基本的な施行スタイルであった二日葬(通夜、葬儀・告別式)では、1つの葬祭会館でひと月に最大15日(30日÷2日)稼動できる。友引などの火葬場休業を考慮しなければならないエリアもあるが、ここでは理論値として月15件、年間180件とした。この年間180件を会館1か所当たりの標準的な施行件数(=死亡数)と仮定すると、北海道は現段階ですでに180人を下回っている。つまり、複数出店や新規参入をする場合、もはや標準件数は望めないことを意味している。より綿密な出店・参入計画を立てるには、当該市場の標準的な会館数を知ったうえで、現状の進出会館数が標準会館数よりも多いのか少ないのか、こうした数値を把握することが出店戦略の重要な指標になるといえる。
そこで、編集部では「会館過不及指数」なるものを考案し、1会館当たり死亡数とは異なるアプローチで市場規模に対する会館の過不及状況を考察した。この指数は当該市場の標準的といえる会館数と現状の会館数から、葬祭会館の過剰もしくは不足傾向を示す指数である。今回、全国47の都道府県、東京特別区と20の政令指定都市別、および全国1,900を超える市区町村別(政令市の行政区を含む)に、会館過不及指数を算出した。
当該市場の会館過不及指数はどのような計算過程を経て導き出すのだろうか。その算出プロセスは、(a)1会館当たり死亡数の算出→(b)可住地面積の確認→(c)死亡数密度の算出→(d)商圏内死亡数の算出→(e)商圏内標準会館数の算出→(f)可住地面積標準会館数の算出を経て、最終目的の(g)会館過不及指数に至る。
それぞれの算出数値の説明は本誌を参照されたいが、最後の計算式としては下記のようになる。
会館過不及指数=現会館数÷可住地面積標準会館数×100
会館過不及指数は、当該市場における現在の会館数を、当該市場における会館数の理論値である「(f)可住地面積標準会館数」と比較すると導ける。具体的には、(f)を100としたときの現会館数との関係を指数で表わせばよい。その結果、100を超えていれば過剰傾向にあり、逆に下回っていれば不足傾向にあるといえる。過剰傾向が強ければレッドオーシャン的な飽和市場、不足傾向にあれば競合が少ない、参入余地が大きい市場などと読み取ることもできる。
図表に、会館過不及指数の全国平均と、上位(会館数が過剰傾向)3県を提示した。それによると、会館過不及指数の全国平均は125.3で、標準会館数からみれば過剰ということになろう。都道府県別にみると、指数が最も高いところは栃木県の211.1で、次いで福島県196.4、岩手県195.8と、東日本の各県が上位を占めた。いずれも大手互助会の牙城の地で、勢力的な出店攻勢により、現状の1会館当たり死亡数もそれぞれ85.2人(栃木)、91.6人(福島)、91.9人(岩手)と全国上位ベスト3を占めている。逆に最も低い(葬祭会館が不足傾向)ところは、東京都の57.2(東京特別区単独では49.7とさらに低下する)で、以下、沖縄県64.0、神奈川県81.4と続く。
会館数 | 可住地面積積標準会館数 | 会館過不及指数 | |
---|---|---|---|
全国 |
11,053 |
8,824.6 |
125.3 |
1.栃木県 |
296 |
140.1 |
211.3 |
2.福島県 |
302 |
153.7 |
196.4 |
3.岩手県 |
214 |
109.3 |
195.8 |
本誌では、全都道府県・政令指定都市(東京特別区を含む)の会館過不及指数を計算過程とともに提示している。加えて「DATA編」では、北海道・東北エリアの全市区町村の会館過不及指数も掲載している(北関東以降については次号から連載形式で掲載する)。
なお、本稿で提示する会館過不及指数は、算出過程で求める葬祭業の標準的な商圏面積を半径2km内、年間の標準施行件数を180件と定めて算出している。この2項目は、変数として(商圏を3km、5km圏内などと、標準施行件数を144件、120件などと)置き換えることができる。つまり、自社の市場環境に即して独自に算出することも可能となる。