株式会社 KOGA設計
進化するレジャーホテルのプロデュースワーク
多目的利用×分母の拡大×高い投資利回
レジャーホテルの設計・デザインを長年にわたって牽引する㈱KOGA 設計代表取締役の古賀志雄美氏。コロナ禍で宿泊業態のパワーバランスが大きく変化するいまだからこそ、レジャーホテルの優位性を活かし進化を続けるビジネスモデルの再構築が求められる。新築レジャーホテルの開発も進むメリットとZ世代(若者世代)も取り込む新たな潮流とその方向性について語っていただいた。
代表取締役
企業名 | 株式会社KOGA設計 |
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TEL | 03-3377-8312 |
所在地 | 東京都渋谷区本町3-13-12 渋谷本町ビル4階 |
URL |
コロナ禍で顕著になった
レジャーホテルの優位性
日本国内の宿泊業態はシティホテル、ビジネスホテル、旅館、レジャーホテルといったカテゴリーに分類できるが、レジャーホテルは、近年キワモノ的な偏見の目でみられている傾向にある。とくにZ世代ともいわれる若年層の多くはレジャーホテルを利用した経験が少なく、「古い、汚い」というネガティブな先入観だけでレジャーホテルを敬遠している。現在運営されている施設は80~90年代にオープンしたホテルが多く、リニューアル投資することができず「古い、汚い」まま、安い料金で営業しているホテルも少なからずあるのも事実だ。
KOGA設計は設計デザインをとおして、こうしたネガティブなイメージの是正につとめてきた。常にその時代の最先端の設備を揃え、利便性が高く、リーズナブルで、24時間・365日チェックインできる多様な宿泊ニーズに応えられる宿泊業態としてレジャーホテルが広く認知されるよう、この40年にわたりプロデュースワークをとおして努めてきた。
もともとレジャーホテルは非常に収益性が高い事業として投資家からも注目されており、他の宿泊業態にはない優位性を持っていた。しかし近年は、少子高齢化にともなう市場の縮小と価格ダンピングのなかでレジャーホテル事業者が苦境に立たされている。
しかし2年にわたるコロナ禍を超えてあらためて、他の宿泊業態にはないレジャーホテルの優位性を再評価しなければならない。
たとえばシティホテルは、もともと宿泊・飲食・バンケットの3部門で売上げを確保するビジネスモデルだったが、2000年以降婚礼・宴会需要の減少によりバンケット売上げが消失した。さらにコロナ禍でインバウンド需要がなくなったことで宿泊売上げも消失し、ビジネスモデルの見直しを迫られている。
ビジネスホテルも、ここ数年はインバウンド需要に対応する宿泊特化型ホテルとして市場が急拡大したが、コロナ禍によって状況は一変した。本来のビジネス需要もリモートワークやオンライン会議の普及によって激減し、コロナ収束後も回復の見込みは立っていない。
旅館やリゾートホテルも、コロナ禍での移動の制限によって苦境に立たされている。
そのなかで、レジャーホテルは日常使いの身近で遊べる利便性とコスパの高いプライベート空間として、コロナ禍で再評価されている。繁華街の宿泊需要は停滞しているが、レジャーホテルには高稼動を確保しているホテルも多く存在し、郊外型レジャーホテルは高稼動を維持しマーケット需要の大きな変化にも強いビジネスモデルとしても注目されている。
HOTEL TIMES ONE(東京都池袋):40室新築
スモールラグジュアリーレジャーホテルとして
2021年6月オープン
ホテルDior7つくば(茨城県土浦市):2021年7月リニューアルオープン
“休憩利用の獲得で回転数重視”から
“宿泊利用の獲得で客単価重視”に転換
レジャーホテルを飲食店に例えると、多種多様なメニューを揃える大衆食堂が当てはまる。カップルのリピート需要がベースにある。さらにビジネスや観光客を受け入れるオールエイジをターゲットにした懐の深さこそがレジャーホテルの優位性であり、未来に向けて追求すべき方向性でもある。
言い換えると「多目的に利用できる使い勝手のいいホテル」の新業態レジャーホテルが進化の方向性になる。カップルだけでなくビジネス、観光客、女子会など幅広い客層を受け入れることで“分母” が大きくなる。そしてそれは従来の“休憩利用の獲得で回転数重視”というビジネスモデルから、“宿泊利用の獲得で客単価重視”へと転換が求められる。
ベテランオーナーのなかには、過去の成功体験にとらわれるあまり、回転率ばかり重視する人も少なくない。かつてのように1日3回転を狙うのではなく、2回転、もしくは1.8回転でも売上げを上げるハード×ソフト×オペレーションを構築しなければならない。
たとえば1ルームあたり月60〜70万円の売上げを目標として、80~90年代なら「休憩5,800円、宿泊6,300円」の料金設定で回転数を稼ぐことで目標を達成できた。しかし近年は「休憩8,000円、宿泊1~3万円」で客単価をあげなければ目標達成は難しい。過去のやり方ではもはや通用しない時代になっている。
一方、レジャーホテルが収益性の高い事業である事実は、市場が縮小しているといわれる昨今でも変わりはない。以下、具体的な数字をもとに検証してみよう。
●レジャーホテル資金運用モデル
25部屋のレジャーホテルを5億円で取得し、全額を金融機関からの融資で賄ったとする。15年で返済すると、月々350 万円、年4,200万円の返済額となる。
一方、売上げは1ルーム60万円/月、ホテル全体で1,500万円/月。うち経費が60%として粗利600万円/月。年間で7,200万円となり、年間投資利回りは12〜14%に達する。返済額4,200万円を差し引いても、毎年3,000万円が残る計算になる。
10年間返済を続けると借入金残高は1億円程度。手元に利益が残る状態でホテルを売却すれば、キャピタルゲインとして大きな数字が手元に残る。レジャーホテル事業を不動産事業の派生ビジネスとして捉えるとここまで収益性の高い事業は、他にはなかなか見当たらない。
長期35年の資金調達が可能とした
新築ホテル建設のメリット
91年バブル崩壊以降、2008年リーマンショックを経て築古レジャーホテル物件を購入、リニューアルをして運営するケースが多かった。しかしここ数年ではレジャーホテルを新築するケースが増えている。
事業者がレジャーホテルの新築を選択する理由の1つとして、資金調達のしやすさがあげられる。既存ホテルの改装資金は通常7年、10年、15年での返済計画がたてられる。新築ホテルの場合は35年に返済期間を延長した金融機関も多くなり、つまり返済額の面からみると、改装資金の2倍の金額を新築資金として調達することが可能となった。
ちなみに、レジャーホテルが新築だった1980年代の貸出金利が8〜10%に対し、2022年は1.5%〜2%と低い。35 年返済の新築レジャーホテル開発の方が高い投資利回りが見込める。
前年度は実際に弊社も池袋、大宮市地区に数件の新築物件を手がけた。
全室岩盤浴・天然温泉「美肌の湯」を備えるHOTEL MYTH安曇野(長野県安曇野市)
デジタル社会に対応する最先端
ハード×ソフトのホテル投資が必要
デジタル社会・DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速化するなかで新築あるいはリニューアルのハードやソフトへの投資の課題を指摘しておきたい。
隆盛を極めた1980年代のレジャーホテルには、最先端のインテリアが揃っており、「ポパイ」「ホットドッグプレス」「アンアン」「ノンノ」といった若者向け雑誌で盛んに取り上げられた。トレンディドラマに夢中になる若者たちの憧れが、当時のレジャーホテルだった。
しかし、1990年代のバブル崩壊や、2008年のリーマンショックを経て、レジャーホテルの先進性は失われてしまった。バブル前、あるいはリーマンショック前で時間がとまったままのレジャーホテルが、いまも多く残っている。
一方、昨今のデジタル社会では、YouTubeやSNSなど生まれながらデジタルネイティブのZ世代の若者の遊びやコミュニケーションが大きく様変わりしている。若年層を取り込みたいはずのレジャーホテルで、YouTubeをはじめとするネット動画を楽しめる客室空間の環境を整備しているホテルが果たしてどれくらいあるだろうか。若年層だけではないビジネス利用客を取り込むうえでも、大容量Wi-Fiの導入が必要不可欠となっているが、レジャーホテルの導入は遅れている。
いまのレジャーホテルの多くは、基本的な社会インフラに関しても遅れをとっているのではないか。「分母を拡大し多目的に利用できる使い勝手のいいホテル」を目指すのであれば、まずは新しいライフスタイルに対応した適正なインフラ投資が求められる。
コロナ収束後の未来に、レジャーホテルが進化していくために、本来のレジャーホテルの優位性を活かすにはどうしたらいいか。事業に関わる一人一人が真剣に考えなければならない。(談)