㈱ARTH(アース)
●CASESTUDYⅡ 強みを活かすオンリーワンホテル
WEAZER西伊豆
エネルギーと水を100%自給する
オフグリッド型居住モジュールを活用した“SDGsホテル”
宿泊事業を可能にする
静岡県の西伊豆エリアに2022年12月10日にオープンした「WEAZER (ウェザー)西伊豆」は、自然の力を活用して水やエネルギーの100%自給を行なうインフラ不要の完全オフグリッド型のホテルヴィラで、今後の宿泊施設の開発立地や運営スタイルに新たな可能性をもたらすものとして注目される。
施設を運用するのは、宿泊施設の運営を軸に地方創生や再生を手がける㈱ARTH (アース、22年 6月に㈱Catalystから社名変更) 。
同社はコロナ禍にあった21年に伊豆市土肥にホテル「LOQUAT西伊豆」を開業。歴史的な建造物を改装し、源泉かけ流しの温泉やラグジュアリーな客室を備えたほか、世界的なシェフを招いての飲食サービスを提供するホテルとして高いADRを実現している。また、空き別荘が多い西伊豆の特性を踏まえ、これらをリノベーションして本館を中心に複数の客室が周辺地域に広がるスタイルをとる注目企業だ。
そのARTHが現在注力しているのが、完全オフグリッド型居住モジュール「WEAZER」を軸としたTechnology事業。世界展開を図るためにはインフラにとらわれないイノベーションが必要だという判断のもと、エネルギーを自給し、雨水から水をつくり出すことで、たとえ無人島であっても快適な滞在空間の提供を可能にしようと、 4年をかけて研究開発を行なってきた。
WEAZERは、環境に優しい製品であることが大きな特徴で、もとより太陽光発電で電気エネルギーをつくるためCO 2の排出量はゼロ。雨水をろ過、滅菌して上水をつくり、しかも特殊な浄化装置によって汚水排水もないため、自然環境を傷つける懸念からこれまで開発ができなかったような立地でもホテル運営が可能になるという[ 図表 1]。
[図表1]電力と水の供給/消費量
また、電気や水道などの既存のインフラから独立している特性を活かすことで、ホテルや別荘のほか、停電や断水が発生した災害時、緊急時の避難場所などのさまざまな用途も視野に入るようになった[ 図表 2]。工場で製造した複数のコンテナユニットを現地でつなげてモジュールを構成するスタイルのため、カスタマイズが可能で、短工期なのも特徴だ。
[図表2]WEAZER の展開・連携イメージ
ちなみに、WEAZERの販売価格は「ベースモデル」で 1棟約 1億 円から(内装および設置工事費等を除く)で、施設の特性上、脱炭素化に関わる公的補助金や特別償却などの制度も活用可能である。
斜面地に建ち、海原を見渡せる絶景立地を活用
西伊豆の舟山地区に開設されたWEAZER
屋根上に敷設した太陽光パネルで電力を賄う
海側を全面的に開口部として開放感を創出
76 ㎡の客室内にはキッチン
も設置
斜面地に建ち、海原を見渡せる絶景立地を活用
斜面地に建ち、海原を見渡せる絶景立地を活用
雨水のタンクとろ過装置
建物とEVとで電力を共有可能
WEAZERを活用した
ファーストモデル
そのWEAZERを使った宿泊施設のファーストモデルが、LOQUAT西伊豆から車で10分の舟山地区に、その客室の1つとの位置づけで昨年オープンしたWEAZER西伊豆だ。高台に位置する一棟貸切りの完全プライベート空間で、パノラマオーシャンビューの客室からは西伊豆の山々と駿河湾を一望できるほか、大自然に包まれたテラスには露天風呂とデイベッドを用意。テラス全体に水盤を設けたことによって、室内からはまるで海に浮かんでいるような雰囲気に浸ることができる。
敷地面積約500㎡、建築面積約100㎡の規模で、客室面積は約76㎡。海側に開口を大きくとった開放感のある客室は、木質感のあるインテリアで落ち着きと温かみを感じさせるもの。夕食はLOQUAT西伊豆で地産地消のイタリアンフルコースが用意される(車での送迎付き)。
開設にあたっては、日照時間や降雨量などについて気象庁の過去20年分のデータを元に、この場所でどのぐらいの発電が可能か、またどのぐらいの貯水ができるのかを算出。一方で、ホテルとして運用するにはどれだけのエネルギーが必要かをシミュレーションし、必要な太陽光パネルの規模や蓄電池の容量、建物の広さなどのスペックを決めた。エネルギー状態の見える化を行なうとともに、晴れの日は余った電力でEVへの充電を行ない、万が一のときにはこのEVから建物へ電気を供給できるようにするなど、電気自動車とWEAZERの組合せで効率性と安全性を高めている。
また、雨水のろ過装置はろ過、滅菌して保健所の水質基準審査もクリアした上水をつくり出すことができる。一方、汚水は特殊ろ過装置で浄化処理したうえ、トイレに流す中水として循環する仕組みも有することで汚水排水がゼロとなっている。また、同施設は一般のホテルと同様に、建築物として申請され、宿泊業の認可も受けている。
カーボンゼロリゾートの
可能性を世界で追求
同社の代表取締役高野由之氏は、「晴れの日は太陽の力で電気をつくり、雨の日には雨水を活用して水をつくるという、自然の力とテクノロジーを組み合わせた。海と山の自然が美しい舟山エリア全体を、SDGsを意識したこのオフグリッド型のモジュールで再生していきたい」と抱負を語る。
観光客の減少傾向が続いた西伊豆エリアには空き家や空き店舗、旅館、蔵が多く、これらをリノベーションするとともに、WEAZERを活用したSDGsな地域再生の事業モデルの構築を目指す考えだ。実際、WEAZER西伊豆に続く第2弾として、プール付きの敷地を活用し、1階をテラス、2階を宿泊として開発した「WEAZERTerrace」を24年3月に、第3弾として、約1000坪の広大な敷地に同エリアのセントラル機能としてラウンジや複数棟の宿泊施設を展開する「WEAZER Village」を24年中にオープンする計画が進行している[図表3]。
高野氏は「将来的には日本各地の自然豊かな場所でのリゾート開発や被災地・避難所での活用、さらには海外でのエリア開発などにも役立てていきたい」と語る。
現在は場所の選定から開発、運営までを1社で行なっているが、同社の取組みを応援する県内企業や自治体などと連携を図り、まちづくり会社をつくる構想もあるという。河津桜や海岸線に広がる絶景、美しい星空などの自然に恵まれた環境を活かすとともに、そうした面的な拡大を担う拠点施設の開発も予定している。
また、建物だけではなく、携わる人の高齢化によって手入れが行き届いていない静岡ならではの柑橘類の果樹園や畑などを再生し、農作物をつくる取組みも行なっていく意向だ。旅行中にランニングをしたいという人向けに、廃校のグラウンドを活用して運動ができる場所を整備したり、有名な河津桜をさらに植え、春になるとエリア全体がピンク色に染まるような景観づくりなど、多彩な構想を抱いている。
「社会課題、地域課題に向き合いながら世界中の人を魅了する事業を行なってきた当社にとって、WEAZERは単なるテクノロジーの発信ではない。新しい技術、イノベーションで社会や地域の課題を解決し、美しい自然を壊すことなく、いかに人々を魅了できるか、というテーマのもと、われわれの理念を共有できるパートナーとともに事業展開を図っていく方針です」と高野氏。
そうした想いが込められたWEAZER西伊豆はオープン以来、90%以上の稼動を維持し、今年2月以降は予約もほぼ満室状態。いまのところLOQUAT西伊豆のリピート客が多く、富裕層のカップル客が中心。広告宣伝費はかけていないが、話題性のある施設として各メディアで取り上げられたことから、それで興味をもった人たちの予約も多いという。料金は、2人・朝夕食付きで1泊13万円(税込)〜。
WEAZERを活用することによって、自然環境を破壊することなく、そこに存在する資源を活かして世界中のさまざまな絶景を満喫できる施設づくりの構想はすでに具体化段階にある。まずは安全な水の供給が課題になっているアフリカのウガンダや、太平洋諸国で自給型宿泊施設の建設計画を進めているという。
施設名 | WEAZER 西伊豆 |
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所在地 | 静岡県沼津市戸田2592-1 |
運営 | ㈱ARTH |
開業 | 2022年12月10日 |
客室数 | 1室(1棟貸し)/1日1組限定 |
定員 | 1 ~ 3人 |
客室規模 | 76㎡ |
提携施設 | LOQUAT西伊豆 |
設備 | キッチン、トイレ、露天風呂、ベッド2台、他 |
付帯施設 | 駐車場 |
「. LOQUAT西伊豆」が本館となりチェックイン・アウト
などの機能を担う
夕食時は車で送迎。LOQUAT内のレストランスペー
スで地産地消のイタリアンのフルコースを提供
[図表3]今後の地域展開