㈱Catalyst(カタリスト)
●注目企業レポート
高付加価値創造に向け圧倒的な質とテクノロジーを追求
宿泊業のビジネスモデルの革新へ
高野由之氏
㈱Catalyst 代表取締役CEO
企業名 | ㈱Catalyst |
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所在地 | 東京都中央区日本橋横山町3-14 |
URL |
古民家をフルリノベーションした「LOQUAT西伊豆」
量から質へ、数から価値へ
ADRと稼動率の向上こそ目指す道
宿泊事業を中心として、日本各地で地方創生や再生に関わる事業を展開する㈱Catalyst(カタリスト)。昨今のコロナ禍でも、事業展開を積極的に進める姿が目を引く。その理念と取組みについてレポートしよう。
同社代表取締役CEOの高野由之氏は、コンサルティング会社などを経て事業再生と地域活性化を行なう㈱地域経済活性化支援機構(REVIC)に在籍、長年観光業・宿泊業を中心とした事業再生などを手掛けた後、そこで得た知見などをもとに4年前の2018年に独立、カタリストを設立し、この分野に自ら事業者として乗り出すこととなった。現在、全国6か所でホテル運営を行なうが、それらに共通するのは「大手資本がスポットを当てていないポテンシャルの高い物件に目をつけ、その価値を高める事業」という点。すなわち大型ホテルなどを新設するのではなく、もともとある周囲の景観や自然、街並みの魅力を引き出す形でアセットをプロデュースするという「付加価値創造型」のホテル開発だ。
その理由につき高野氏は「たとえば京都の街並みはたいへん魅力的ですが、その分地価は付加価値をつける以前からすでに高額で、投資に対して利益を生みづらい。逆に地方は潜在的なポテンシャルに比較して安い物件が多く埋もれています。その魅力を引き出し『本物』の宿泊施設をつくりあげることに仕事のやりがいがあります」。そう語る同氏は現在の観光業をどのようにみているのか。「少子高齢化が進む人口減少社会にあっては、内需による客数は減る一方です。100人規模で受け入れる大規模施設では、働くスタッフさえ満足に集まりません。つまり客も従業員も『数』が成長のボトルネックになっている状況です」「そうであれば従来のように数や量を競うのではなく、量よりも質へ、数でなく価値を競うべきでしょう」。そこで高付加価値化によりADRを上げていくことが可能となるとし、かつての団体客から個人客へ、さらにハイエンド層へ、という大きな観光マーケットの潮流を見据える。
「たとえば100㎡のスペースを50㎡ずつに分け、2部屋をそれぞれ1泊3万円とするよりも、1部屋として6万円で売れば売上げは一緒ですが、人件費を含め原価率は大幅に下がります」。価値の向上とともに事業としての収益性向上を実現する方程式が、観光業の未来には不可欠との思いがある。
社会に求められる「進化」を
3つのカテゴリーで実現
付加価値創造を重視する同社が、その実現のうえでポイントに挙げるのは以下の3点だ。
1つは「圧倒的なプロダクトクオリティ」。
その好事例となるのが2021年に開業した「LOQUAT西伊豆」(静岡県伊豆市土肥)。同地の歴史的な建造物を取得し改装、源泉かけ流しの温泉やラグジュアリーな客室を設えたほか、世界的なシェフを招聘した飲食サービスなど、「空間、食、サービスともにアジア最高峰といえるレベル」(高野氏)を目指し、「ここでしかできない普遍的な価値」をつくりだした。
現在のADRは約15万円ながら、かなり先まで満室状態。「この成功体験でしっかり質の高いものをつくればそこに確実にニーズはあるとわかりました。『プロダクトを妥協せずつくりこむこと』といえば当たり前のようですが、観光業の原点はここにあると信じています」。その自負の背後には、昨今の形だけのグレード感を売り物にする「ラグジュアリーホテル」の濫立への忸怩たる思いが伺える。
2つめが「新しいビジネスモデル」。
この西伊豆では前述の歴史的古民家を活かした「本館」のほか、空き別荘が多い同地の特性を踏まえ、これらを取得しリノベーション。本館を中心に複数の客室が街の中に広がるスタイルをとる。そのうえで注目されるのが、リノベーションした古民家のうちのいくつかを売却することを視野に入れている点だ。取得したオーナーは自ら利用する一方、利用しない期間はホテルとして運用することで、高い利回りで配当を受ける。別荘、コンドミニアムと違い維持管理コストがかからない点もメリットだ。同社にとっては売却益のほかホテルオペレータとして利益の一部を継続して得ることが可能になる。高野氏はこれを「新しい空き家活用の事業モデル」とする。
また同社の再生案件第1号となった「Obi Hostel」(東京都中央区)は、既存オフィスビルを取得し1階をカフェ、2階以上をゲストハウスとして17年に開業した物件。しかしコロナ禍によりインバウンドが激減し2、3階をフィットネスに転換したところ、宿泊客利用のほか、地域からの目的客も。その客がカフェで飲食を利用するなどシナジー効果も生じており、「従来の宿泊特化型にはなかったコンテンツを組み合わせると意外な『カップル』が成立します。こうした組合せの妙で、コロナ禍前以上のキャッシュフローを実現しています」。ワーケーションなど働き方をはじめ多様な体験がシームレスにつながりはじめているいまの時代にふさわしい、新たなビジネスモデルの創造に今後も挑戦したいと高野氏。
3つめが「テクノロジー」。
同社では、電気、ガス、水道などのインフラが整備されていない立地――「無人島」「砂漠」などの遠隔地でもラグジュアリーな宿泊体験が可能な観光のあり方について、自然とテクノロジーの合体により実現しようと取り組む。それが同社が開発した「完全オフグリッド型居住モジュール」だ。4年前から構想し開発に至ったものだが、太陽エネルギーや用水を活用した先端システムにより、ライフラインのインフラのない場所でも快適なラグジュアリースペースの実現を可能にした。しかもコンテナのモジュールを基本とするため工場で制作し現地に運び込むだけと、工期も大幅に縮小する。
その結果、絶景ながらこれまで開発が困難だった立地でもホテル建設が可能になる。もちろん100%自然エネルギーで自立する仕組みなだけに、環境への負荷も抑えられる。その用途はホテルにとどまらず、災害時の避難所など幅広いという。すでに特許取得済みでその販売も行なっていくが、モデルルームともなる第1号物件が、今年6月、前述の西伊豆の分散型の宿泊棟の1つとしてデビューの予定だ。
こうした先進的なテクノロジーも「人に喜びを与える」観光とセットで社会にプレゼンテーションすることで、システムの優位性のアピールだけにとどまらない「感動」の創造につなげられる点が重要、と高野氏。「宿泊業というものを通じて、広くこの世の中に求められるものをつくりあげていきたい。『ホテル』『観光業』はその価値を伝えるうえで最も可能性のあるメディアだと思います」とこれに取り組む意義を語っている。
太陽光・用水等の自然エネルギーを活用した「完全オフグリッド型居住モジュール」